1000のバイオリン

1000のバイオリン

ザ・ブルーハーツのベストアルバム『ALL TIME SINGLES』の
リリース日である本日、全曲解説+歴代PV5本ダイジェスト映像、
すべてアップが終了しました。
観ていただいたみなさん、ありがとうございます。
まだの方、ぜひ。

にしても。
全曲分の解説を書くため、当然このベスト盤を何度も
聴き直したわけですが、それ以来、特に“1000のバイオリン”が、
もう、頭の中にこびりついてこびりついて、ぐるぐるループしっぱなしで困っている。

夜中、自転車で帰宅している途中とか、ふと気づくと
「♪そんなことはもうどうでもいいのだ〜」って鼻唄していたりして、
信号待ちで停まると、横のバイクのにいちゃんが

「何? このおっさん。何が、もうどうでもいいの?」
「どうでもよくないんじゃないの?」
「どうでもいいことにしちゃいけないんじゃないの?」
「そういう風体よ? あんた」

みたいな顔で見ていたりして、恥ずかしい限りです。


しかしこの、

「誰かに金を貸してた気がする そんなことはもうどうでもいいのだ」

というフレーズ、間違いなく日本ロック史上に残る名フレーズであり、
真島昌利という作家の天才性が発揮されたラインだと思うんだけど、
何でこんなにいいんだろう。何がそんなにぐっとくるんだろう。
ちょっと考えてみます。

・日々、あれこれ瑣末なことに囚われて、しがらみや惰性や習慣や保身なんかも
いろいろあって、だんだん身動きがとれなくなっていく、そんなつまんねえ生活を
ふっきる呪文としての「そんなことはもうどうでもいいのだ」だから。

・たとえばこれが、「誰かに金を借りてた気がする そんなことはもうどうでもいいのだ」だと、
「おいこら、どうでもよくないだろ」って話だけど、「貸してた気がする」で、
それを「そんなことはもうどうでもいいのだ」ってふっきっちゃう、
ということは、「物理的に損をすることを避ける」よりも、
「しがらみを捨ててすっきりする」
ことのほうが重要だ、というメッセージだから。

・たとえば、ものを捨てる時って、最初は「ああこの服、まだ着れるよなあ」とか、
「この本、もう一回読みたいなあ」とか思ってるけど、割り切ってばんばん
捨て始めると、勢いついちゃって、「え、それまで捨てなくていいんじゃない?」
みたいなものまで、もうどんどん捨てたくなりません?
ある種、それと近い、
「いいの、損しても! あとで『あちゃあ』って思ってもかまわないの!
俺にとっては、今のこの、どんどん身軽になっていく爽快感の方が大事なの!」
という、そういう気分を表現する言葉としての、「そんなことはもうどうでもいいのだ」だから。

・ましてや、そのあと、
「思い出は熱いトタン屋根の上 アイスクリームみたいに溶けてった」と続くわけです。

思い出って、借金みたいな「貸すのも借りるのも、なきゃないほうがいい」
ってもんじゃないよね。大事だったりするよね。
それさえもう溶けてった、って歌っているわけです。で、そのことを肯定しているわけです。

・つまり、総じて、これから「楽しい事をたくさんしたい」ためや、
「おもしろい事をたくさんしたい」ために、障害になっちゃうかもしれないものは、
たとえ大事なものでも全部捨ててしまえ。
「今」と「未来」が大事なんであって、過去はいらねえ。
という曲なわけです、これは。

って、マーシーがそういうつもりで書いたのかどうかは知りませんが、
今こうやって書いてみて、自分がなんでこんなにこの曲を好きか、
ちょっと納得がいった気がしました。
そういう、リスクを伴った自由さや、孤独や絶望や疎外感も
込みの前向きさって、ザ・ブルーハーツというバンドの核だったと思うので。


あと、ヒロトの曲でいうと、“情熱の薔薇”の、

「見てきた物や聞いた事いままで覚えた全部 
でたらめだったら面白い そんな気持ちわかるでしょう」

というフレーズにも、聴くたびに近いものを感じます。


写真はそのベスト盤のボックスを開いたところ。
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