OMSBの“喜哀”、一対一で目の前で歌っているようなダイレクトで強靭な表現力に心が揺さぶられる
2023.11.22 22:00
今年10月にリリースされたOMSBの“喜哀”。この曲を聴いていると、一対一でOMSBと向き合っている気持ちになる。誰が聴くかわからない時代に、聴く者の顔を見つめながら作られたような近さがあるのだ。その「近さ」は、心なのか脳なのか脊髄なのか、どこかわからないけど身体を開放してくれるパワーを持っている。
《やっぱり俺は独りバースを書くのみ》と、どんな時も音楽と向き合い続けるOMSB自身、そして《世界線は同じだぜ お前も俺も》と同じ地面の上に生きる聴き手を対等に見つめる距離感は、聴けば聴くほどに近づいていく。生前親交が深かったという、今年7月に急逝したBIG-RE-MAN(岩手県花巻市出身のHIP HOPクリエイター集団)のKANDATAへの追悼も「寂しいのはあなただけじゃないよ」と寄り添ってくれるかのよう。
いつも人間の野生を奮い起こし、身体の芯に触れるOLIVE OILのビートは、聴く者の感情を溢れさす不思議なエネルギーがあるが、“喜哀”の精密なビートは、聴く者のこれまでの人生を拾い集めるかのような、心の芯に触れるもの。そのビートでOMSBは、自身の人生を描きながら、聴き手の肩に触れるような、ダイレクトな表現を突き刺してくる。心が揺さぶられる。(前田侑希)
『ROCKIN'ON JAPAN』12月号のご購入はこちら