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    クラシックなのにカオス。前衛的なのにキャッチー。新世代宅録アーティスト・野口文(のぐちぶん)の“bottoⅧ”の中毒性がやばい


    最近のインスタストーリーの広告はほんとにすごくて、いい感じの音楽が流れてくると即座にリンククリックして曲に飛ぶ、ということを何度も何度も繰り返しているといい感じの音楽しか広告に出てこなくなった。

    その繰り返しの中でこの間パッと出てきたのが野口文の“bottoⅧ”なのだけれど、とにかく好みすぎてなんじゃこれと思いながらYouTubeに飛ぶとなんとまだ登録者数212人とのこと(今見たら387人に増えていた)。

    女性ボーカルの曲だったので女性シンガーソングライター?と思ったが、よくよく見ていくとYouTubeのアイコンに映っている野口文という方が、様々なボーカルを招いて作り上げた作品が『botto』という昨年9月にリリースされたアルバムであり、そこには曲名らしい曲名はなく、“bottoⅠ”から“bottoⅪ”までのアラビア数字がナンバリングされた11曲が並んでいる。


    レコーディング風景を見るとどうやら完全に宅録のようで、ロフトベッド?の周辺でドラムもフルートもコンガもレコーディングしている様子。

    曲はフリージャズ的なピアノが支配するトラックを基調としながら、環境音楽的なインストゥルメンタルだったりジャジーヒップホップだったりを自由に横断していく。謎のサンプリングに違和感のあるパーカッション、ポエトリーリーディングなど要素はすべて前衛的で調整感も曖昧なのに、全体的な仕上がりはなぜか聴きやすくてキャッチー。時折聴きやすいメロディの曲もそっと差し込まれる。


    その聴きやすいメロディの中の2曲が“bottoIV”とさっき挙げた“bottoⅧ”で、前者はみんな好きなこと間違いなしの気だるい男女ツインラップ。後者は特に中毒性が高く、ギターリフとアウトスケールするキーボードのリフが絡み合い、何かのCMソング的な女性ラップが乗る。つぎはぎのサウンドは現代のボカロシーンの系譜にも落とし込めそうな感じ。

    歌詞を見てみると《気づかず増えた命は愛せないもどかしさ》なんて言っていてついつい深読みしたくなってしまうけれど、《無論、猿ばかり歌詞ばっかり気にしてるんだ》《まともにジャズも聞かない奴らが、ジャジーとか言って評価しているけれども》なんてシニカルな言葉の刃が鋭く研がれていて、全部全部見透かされている。(畑雄介)

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