幼稚園や小学校なんかでは、災いの原因とされていた鬼の邪気を払うため、「鬼は外!」「福は内!」と言いながら豆をそこかしこに撒き散らしたものだ。
1月10日、“鬼ノ宴”と題された楽曲がリリースされると、同日に公開されたリリックビデオはわずか13日で100万回再生を突破した。
もともとは2023年11月にTikTokでショートバージョンのデモが公開されていて(現在350万回再生超え)、フル音源のリリースが待ち望まれていた。
そのデモには、「#バズれ」というハッシュタグが添えられている。
策略通りに、思惑通りにバズったわけだ。
ソリッドで余計な音を極力排除した打ち込みサウンドに、“鬼ノ宴”というタイトルが示す通り楽曲全編に「和」の雰囲気が立ち込めている。
電子音と「和」の趣を持つ歌は定期的にバズを生み出しているが、何より本作は歌詞の世界観が素晴らしい。
1サビの《あゝかっぴらけや其御口/宴、宴が始月曜》、2サビの《あゝ真っ盛りや此ノ宴/今宵、今宵は帰日曜》の《始月曜》(はじまんでい)、《帰日曜》(かえさんでい)という言葉遊びの妙、琴を静かに弾くように放たれる独特の歌唱、地声との境目を極限までフラットに抑え込んだ裏声……といった具合に、すべてが絶妙に噛み合いながらしかるべくしてバズを生んだことがわかる。
ネオンが輝く赤提灯の居酒屋で老若男女が宴を催しているような、モダンでクラシカルなサウンドスケープには静かに心を躍動させる力強さがある。
弱冠21歳のシンガーソングライターが「#バズれ」と願いを込めてこの世界観を構築できたことにも驚きだが、昨年12月にリリースされた楽曲“改札”を聴けば、それもうなづける。
“鬼ノ宴”とは打って変わって優しいピアノバラード。一切の陰りもなく、切なさよりも愛しさがこみ上げるラブソングで、同じ人物とは思えないほどに突き抜けるような爽やかさが光っている。次の一手に注目したい。(橋本創)
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