老人賭博


再び芥川賞候補となった松尾スズキさんの小説を読む。全部の候補作を読んだわけではないので芥川賞に関しては無責任なことは書けないのだが、松尾さんの小説は自分にとって、さまざまな現在の小説の中で圧倒的にしっくりくる文体で書かれていることは間違いない。逆に言うと多くの小説の文体が文学としての書き手の演出意図が透けて見える気がしてしっくりこない。文学の言語に翻訳された日本語で書かれていて、その翻訳技術が競われてる感じとでも言うのだろうか。それはロックを聴いたりマンガを読んだりしている中ではあまり感じない違和感である。松尾さんの文体は自分の日常を生きる感覚に限りなく近い平易で自然なものである。それなのに特にこの『老人賭博』は文学でしか味わえない非日常に満ちている。こういう作品が主流になった方が文学の未来は開けるのではないか、そんな気はしている。(古河)
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