2009年超私的ベスト・アルバム、下半期編、第3位はThe Flaming Lipsの『Embryonic』。
ウェイン・コインという人物がどういうひとなのか、それは、ステージ上で銃口から紙テープが飛び出すオモチャのライフル(?)を撃ちまくる、あの姿が言い尽くしていると思う。つまり、それは過激である。でも、どこにも血は流れない。けれど、それはやはり何がしかを撃つという行為においてメタファーとしてあり、体制にはアンチであって、同時に自身をカリカチュアするという意味において俯瞰的でもあり、そして、ここが重要なのだけど、その振る舞いはどうにもひとを楽しくさせるということなのだ。ウェイン・コインにとって音楽は革命行為そのものであり、それはしかも、スリリングなまでにひとを揺さぶるものでなければならない。そして、そのような「哲学」のことを、彼は自由だと考えていると思うのである。
だから、この新しいアルバムも、そこにあるのはただ、自由、ということだ。何度聴いても聴いたことのなかった音が聴こえてくるこのサイケデリックな大海のような作品は、ただそのことを告げているように思うのである。凄いと思う。