これはタイトルにも書いた通り、すごく簡単に言ってしまえば、マット・デイモン演じる宇宙飛行士マークが火星に1人で取り残されてしまう、トム・ハンクスが主演した映画『キャスト・アウェイ』の火星版という感じだ。
この作品は、同タイトルの原作本を元に作られた映画で、監督のリドリー・スコットは「脚本が送られてきて、読んだらあまりに素晴らしかったのですぐに引き受けた」と語っていた。
舞台は2035年。NASAのミッションで火星に行くが、砂嵐に襲われ、メンバーはマークが死んだと思い込み火星から避難してしまう。しかし、彼は生き残っていて、火星に1人で取り残されてしまうのだ。
というわけで、マット・デイモンが1人芝居をしないといけないシーンが多いわけだが、この原作のスピリットを表現するには彼以上に最適な人は考えられない、というほど素晴らしい演技をしている。まず、出て来た瞬間に誰にでも好かれる人柄であること。そして、ポジティヴなエネルギーを発していること。そしてこの作品に重要な笑いを表現できること。そのすべてをマット・デイモンは完璧に体現している。実はマークがどんな人物なのか、その背景はほとんど語られない。すぐに物語が始まるので、出て来た瞬間に人々が共感できる、その説得力が彼にあるというのが非常に大事なのだ。
トロント映画祭において1人の演技が多いことに対してマット・デイモンは、「僕も脚本が素晴らしかったから出演することにしたんだ。僕が1人でいるシーンが長くなりそうだ、と思う直前にシーンがNASAに変わったりするので、僕ばっかりが映っていて観客が退屈する瞬間がないように作られていると思う」と語っていた。
正にその通りで、編集とそのタイミングも完璧。
この作品の予告編は、「すべての人間には、お互い助け合うという本能がある」と始まる。この作品はつまり、その人間の本質を非常のポジティブに信じることを描いた作品なのだ。
マークは、まず「自分はサバイバルするんだ」という絶対的な仮定する。そのためには、どうすればいいのかを考えていくのだ。だが、この作品は、”サバイバル”映画にありがちな悲痛な戦いを繰り広げたりしない。この作品の素晴らしいところは、1人で頑張っている時に、決してユーモアも忘れないこと。どんなシーンでも笑いがものすごくたくさんある。だからと言って緊迫感が足りないというものでもないのだ。それは原作本でも重要な部分であり、そのユーモアこそが、窮地に追い込まれた時の人間の真の力と強さを象徴しているから。サバイバルは、それを信じることに始まる、と語りかけてくる作品なのだ。そして、彼を助けようとする様々な人々の思いに繋がっていくのだ。
また、この本は、最初に書いた時はどの出版社も発売してくれなくて、仕方なくウェブサイトで発表したらそれが大人気に。読者の要望に答えて、Kindleで99セントで売り出したら、ベストセラー・リストに入ったため、のちに正式に発売され、今ではリドリー・スコットが映画化!その過程からして良い話だ。原作者(写真帽子の男性)は、「まるですべてが夢のよう」と語りつつ「いつ悪い知らせがくるのかと思って毎日びくびくしている(笑)」と語っていた。
今作は、ここ最近のリドリー・スコットの作品としても、最も誰にでも受け入れられる作品であり、絶対に多くの人が楽しめる内容で、力強い作品。1人でも多くの人に観てもらいたい。
日本でのタイトルは『オデッセイ』で、来年2月13日に公開予定のようだ。
予告編はこちら。