圧巻ケンドリック・ラマーの最新ツアーを観た! フジロックには最高の内容!

圧巻ケンドリック・ラマーの最新ツアーを観た! フジロックには最高の内容!

ケンドリック・ラマーが所属レーベルTDEの「ファミリー」を引き連れて、全米で「チャンピオンシップ・ツアー」を続けている。
その名前とは裏腹な、ずっこけプロモビデオがまず面白い。


ケンドリックは、「チャンピオンシップ」というよりもすでに「チャンピオン」であり、今のアメリカのメインストリームのキングとすら言える。ピューリッツアー賞を受賞し世界を驚かせたばかりか、『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』も『ダム』も批評家から最高の評価を得て、両作ともその年最も売れたアルバムの1枚となったから。さらに、『ブラックパンサー』のサントラも高評価な上、全米1位を獲得している。社会現象となった映画の欠かせない要素となっている。

またTDEには、去年のグラミー賞で5部門という、女性としては最多ノミネートを果たしたSZAも所属しているため、このツアーはTDEの成功を改めて祝す、ほとんど「ウィニング・ラン」のようなツアーだと言える。

ツアーのハイライトはこちら。


私が観たのは、5月29日のマジソン・スクエア・ガーデン。アメリカにおいて、MSGでライブをやることは成功の証でもあるので、今回ヘッドライナーとして初めてMSGの舞台に立ったケンドリックは、とりわけ嬉しそうだった。同じキャパの会場ではすでに何日もライブを行っているのだが、MSGはやはり特別なのだろう。

ケンドリックは、「チャンピオン・シップ」ツアーをやる前に、単独で『ダム』ツアーをすでに行っていた。フジロックのヘッドライナーも控えた今、この日はどのようなライブをやるのか注目していたのだが、単独の時とは全く違う内容だった。簡単に言うと、今のアメリカの最高峰と言えるアーティストが、彼のキャリアの中でも最も開放的でエンタテイニングなライブをやっていた。これがフジロックで観られたら、最高だと思えるものだった。

地元LAでのライブがいくつかポストされている。これは“DNA.”。


去年観た『ダム』ツアーは、ブルース・リーの『死亡遊戯』を彷彿とさせる黄色のジャージを着たケンドリックが、強い自分になるために黙々と修行するというコンセプチュアルな内容。途中でジャージの色が赤に変わったりと、テレビゲーム的な要素も交えたものとなっていた。それは自分の内面と対峙する内容だったと言える。

その前、2016年にフェスのヘッドライナーで観たのは、“Alright”が「Black Lives Matter」のアンセムとなった直後だった。フェスで初めてヘッドライナーを飾るという正に頂点に立つ瞬間だったため、そのライブは最高の出来だったし、その時のセットは政治的なメッセージを意識したものとなっていた。『ダム』ツアーとは違い、内面ではなく自分と世界が対峙する内容だったのだと思う。

2015年の『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』発売時に観たライブは、3000人しか入らない特別な会場でのライブだったこともあり、観客の熱気も尋常ではなく、正にスーパースター誕生の瞬間を観た思いだった。そもそも同作は、ケンドリックというアーティストのアイデンティティを、前作からさらに前進させて決定付けた作品だったと思うのだ。

今回のツアーは、そうやって一歩一歩経験を積み上げてきた彼の現時点での集大成のようなライブ。それでいて、単独ツアーでないこともあり、メッセージ性やコンセプト、政治性を優先させるよりも、ケンドリックをよく知らない人さえその凄さに圧倒されるくらいの分かりやすいエンターテイメントにしていたのが素晴らしかった。だから、ケンドリックは「Black Lives Matter」などのアメリカの政治的な一面を牽引してきたからと言って、身構えすぎて観る必要もない。もちろん意味が分かっていればいるだけ心に突き刺さると思うけど。

ケンドリックはこの日のライブで「俺は、自分にとっての真実をこれまでラップしてきたつもりだ。そしてそれが君達にとっての真実でもあって欲しいと願ってきた」と語った。この日の熱狂と輝かしい「ウィニング・ラン」は、それが実った結果でもある。この間アメリカのラジオを聴いていたら、「ケンドリックのような非常に複雑で知的で意味のあることを語っているアーティストがメインストリームでこれだけ熱狂的に支持されることの方がむしろ稀で奇跡的なことだ」とのコメントが流れてきたが、正に。

彼が出て来た瞬間に、このライブは説明なしで、感動してしまうものだということが分かるはずだ。そのカリスマ性がものすごくて、誰もがぶっ飛んでしまうと思うのだ。MSGの観客には、携帯を掲げながらぴょんぴょん飛び跳ねている人もいたし、私の周りの人達はキャーキャー言いながら踊りまくっていた。とにかくみんなが彼のパフォーマンスに取り憑かれたようになっていた。

今回のツアーのセットがどこまでフジロックに持って行けるのかわからないけど、高い壇上でパフォーマンスしているので、登場した瞬間からどこの席からでもよく観えたし、後ろに映し出される映像も、物語性を重視したと言うよりは、山や滝など、彼の巨大さを象徴したようなものになっていた。それに合わせて、レーザー光線やパイロなど、特に目まぐるしいわけではなのに、ドラマチックに展開するように非常に効果的に使われているのも素晴らしかった。また、前半には、昨日紹介したように「Pulitzer Kenny」と出てくる瞬間もあり、思わず笑ってしまった。

これは“Swimming Pools”。


フジロック最大の見所は、前回の出演時にはまだ『グッド・キッド、マッド・シティー』しか出ていなかったが、今回はその後の金字塔『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』と『ダム』の2枚、そして『ブラックパンサー』や『untitled unmastered.』からの曲までライブで聴けることで、聴き込んだ人ほど言葉にならない衝撃が走ること間違いなしだ。なので、今のうちに、何度も何度も歌詞を読みながら繰り返し聴いて、その場では我を忘れてナマのパフォーマンスにしびれる、というのが良いような気がする。

もちろん、アメリカのライブではそれぞれの曲に合唱のポイントがあるのだが、日本でそれを全部覚えるのはかなりハードルが高いのではないかと思う。

1)その中からいくつか挙げると、まず“Alright”の《we gon’ be alright》は当然大合唱。皆さんも、ここだけは何とか歌いたいと思っているはず。

2)それから、“LOVE.”はテーマ的にも曲調的にも他と違っていつも際立つのだが、とりわけこの日はケンドリックが観客に携帯のライトを付けるように言い、さらに「今日は、マジソン・スクエア・マザー・ファキング・ガーデンで初のライブなんだ! だからこれが特別な祝祭になるようにしたい。俺の一番好きな言葉のひとつ、“LOVE”!」と言って前奏が始まったので、私の心はハートになってしまった。そこで《Sliping bubbly, feeling lovely, living lovely》が合唱となり、ケンドリックが「もっと大きく」と言って《Just Love me》と合唱する。

3)そしてアメリカでは“Alright“よりぐっと盛り上がる“HUMBLE.”。これはアメリカではほぼ全部が合唱になるのだけど、とりあえず、《sit down! be humble!》がフジで鳴り響いたら盛り上がるはずだ。

これはLAでの大合唱場面。


とは言え、先ほども書いたように、今のケンドリックは熱狂的なファンから、友達に付き合って観に来た人まで、どんなレベルの人が観ても絶対に心打たれるようになっているので思う存分楽しんでください!!!! 雨が降らないようにNYからも祈っています。

あ、そう言えば、この日私の隣にVIPセクションがあり、なんとドナルド・グローバー/チャイルディッシュ・ガンビーノがいたから目が釘付け!!!! アメリカでは、『ハン・ソロ』が公開されたばかりだったため、「ランド! ランド!」の声援が会場から上がって恥ずかしそうに手を振っていたのが可愛かった!!!

チャイルディッシュ・ガンビーノは“This is America”で時の人だが、そのMVにはSZAが出演している。この間発表されたSZAの“Garden“にはそのお返しか、チャイルディッシュ・ガンビーノがドリーミーに出演しているので、まだ見てない人は必見。


SZAと言えば、実は彼女はこの日の前のツアーを数日間喉を痛めてキャンセルした。この日も心配だったのだが、途中、「SZAが来てる!」とアナウンスがあり大歓声! 実際のパフォーマンスは、少し喉に無理をしている感じはありつつも、いつものように友達に話しかけるようなイントロからすでに熱唱モードへ突入。彼女ならではのセクシーかつラブリーなダンスも披露し、感動的だったのだが、なんとその後に、「喉に一生治らないダメージを与えてしまった」とツイートしていてショック(涙)。そのツイートはすぐに消されたのだけど。ツアーは恐らくこの後キャンセルするのではないかと思う。その後がどうなるのかとても心配だ。

そんなわけで、NYでは残念ながら披露されなかった『ブラックパンサー』の“All the Stars”共演映像。


ケンドリックのセットリストは以下の通り。

DNA.
ELEMENT.
Big Shot
King Kunta
untitled 07| 2014-2016
goosebumps (Travis Scott cover)
New Freezer (Rich the Kid cover)
Swimming Pools (Drank)
Backseat Freestyle
LOYALTY.
Money Trees
King's Dead
XXX.
LUST.
m.A.A.d city
LOVE.
Bitch, Don't Kill Vibe
Alight
HUMBLE.

ちなみに、検索してみたら私が最初に観たケンドリックのライブ映像が見つかった。2012年のピッチフォーク・フェスだ。メインステージでもトリでもなかったのだけど、絶対観なくてはいけないパフォーマンスとされていて、レディー・ガガも来たというのが話題となっていた。始まってすぐに彼女が映る。懐かしい。ここからなんと偉大に成長したことか。


フジロックの出演は中日の7月28日だ!
http://www.fujirockfestival.com
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