地元の英雄ロビー・ロバートソン&ザ・バンドのドキュメンタリー映画で開幕。スプリングスティーン、NIN、レディオヘッド、ルミニアーズなど音楽関連の映画も次々上映。[トロント映画祭1]

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毎年恒例のトロント映画祭が9月5日に開幕した。去年はこの映画祭で世界初上映され観客賞を獲った『グリーンブック』がそのままオスカーの作品賞を獲るという快挙を成し遂げた。今年もどのような結果になるのか注目が集まっている。

栄えあるオープニングに選ばれた作品は、地元の英雄であるロビー・ロバートソンとザ・バンドのドキュメンタリー映画『Once Were Brothers: Robbie Robertson and The Band』。今年は、この映画祭でブルース・スプリングスティーンのコンサート・ドキュメンタリー・フィルム『ウエスタン・スターズ』や、ザ・ルミニアーズの『III』が世界初公開される他、ナイン・インチ・ネイルズが音楽を手がけた作品、トム・ヨークが書き下ろした曲が披露される作品なども上映。また、ジェニファー・ロペスザ・ウィークエンドFKAツイッグスカーディ・B、リゾなどが俳優に挑戦した作品等、音楽関連のものも数多く公開された。まずは、音楽ドキュメンタリー、サントラを中心に紹介したい。

1)ロビー・ロバートソン『Once Were Brothers: Robbie Robertson and The Band』

オスカー前哨戦が始まるフェスの開幕作品としては地味かとも思ったが、実際劇場に行くとロビー・ロバートソンはトロント出身だし、まだ26歳の監督、Daniel Roherもカナダ人ということで、地元カナダの才能を祝福する開幕に相応しい作品となった。

プロデューサーには、マーティン・スコセッシやロン・ハワードなどが名を連ね、プレミア上映のステージにも登場。スコセッシは『ラスト・ワルツ』の監督でもあるが、ロバートソンには「このバンド内に渦巻く感情というのは非常にユニークだから、それを中心に作ればいい」とアドバイスしたと語っていた。

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また、ロバートソンは若い監督の起用について「かつての自分を思い出したから」とコメント。

この作品は、ロバートソンのメモワールを下敷きにして作られたもので、60年代のバンド初期から1976年のラスト・ワルツまでが描かれている。ボブ・ディランが初めてエレキ・ギターを弾いた際にツアー・バンドとなり、世界中で毎晩ブーイングされたことや、ディランとの『ザ・ベースメント・テープス』の制作風景など見所もたくさん。

ブルース・スプリングスティーンからエリック・クラプトン、ヴァン・モリソンなどがインタビューに答えていて、中でもスプリングスティーンが「このバンドには、白人ロックバンドで史上最高のシンガーが3人も揃っている」と語っていたのが印象的だ。

またこの作品は、ドラムのリヴォン・ヘルムとの確執に対するロバートソン側からの言い分という見方もある。実際、このドキュメンタリーには、ヘルムが亡くなる直前にロバートソンがお見舞いに訪れたことが描かれていたり、映画の最後にはロバートソンがヘルムのために作った“The Night They Drove Old Dixie Down”の輝かしいライブパフォーマンス映像が紹介されるなど、感慨深いものがある。

バンド内でのドラッグ問題などにも触れられていて、タイトルが『僕らはかつてはブラザーだった』と過去系のタイトルであることも肝心だ。このバンドは、スプリングスティーンが言うように天才達が奇跡的に集まったにも関わらず、それを過去形で語らなくてはいけないものになっていることで、より心が引き裂かれるのだ。スコセッシの言っていた「このバンド特有の感情」というのはそのことだと思う。昨今、音楽ドキュメンタリーが黄金時代と言われているが、それは栄光と悲劇のドラマが脚本を書かなくても必然的に描けるからだと思う。

この作品の日本公開は未定。

2)ブルース・スプリングスティーン『Western Stars』

これについては別のブログで詳しく紹介。

3)ザ・ルミニアーズ『III』

https://youtu.be/q9HVx2LPt2s

これは最新作を下敷きにしたショートフィルム。私は他の映画と重なっていて観られなかったのだけど、バンドは上映の後5曲もパフォーマンスして、Q&Aも行なっている。その映像は下で見られる。
https://www.facebook.com/TIFF/videos/366907300905850/

ここでバンドが語っているのは、「最新作は(ドラッグ、アルコールなどの)中毒についてであり、そして家族愛についてである。そして、その狭間でいかに両方に引っ張られるのか。そこには美があり、そして家族の絆があり、そして絶望がある」と。つまり、それらを映像化したのがこのショートフィルムなのだ。

監督のKevin Phillipsによると、「それをそのまま描くと悲劇のみになってしまうので、何か活力のある映像にしたかった」ということだ。

アルバム『III』は9月13日に発売されている。

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4) NIN、『Waves』のオリジナルスコアを手がける

批評家からも絶賛されているし、個人的にも今回の映画祭で観た作品の中でもベスト10に入る。なにより作品そのものが最高。

現代を生きるティーネージャーを主人公に、2人の兄妹とその家族との関わりを親密に、そして悲痛かつエモーショナルに描いた作品だ。

この作品は、まず今回映画祭で観た映画の中でサントラがダントツで最高だった。ケンドリック・ラマーから、チャンス・ザ・ラッパータイラー・ザ・クリエイターフランク・オーシャン。また肝心なシーンではレディオヘッドの“True Love Waits” が流れ、エンドクレジットでは、アラバマ・シェイクスが続くという素晴らしさ。

オリジナルのスコアを手がけることについては、ベテランの域に入るトレント・レズナーとアッティカス・ロスだが、主人公達の心象風景をサウンドにしながらも、ケンドリックからフランク・オーシャンなどの曲と自分達のスコアとを混ぜることで、全体のサウンドを1曲の長い作品としてつないだかのように聴こえる、それが素晴らしかった。正に「波」というタイトルにもあっている。

また、これは未確認だけど、それぞれのサントラの曲もオリジナルの曲とは少しミックスが違うように聴こえた。トレントらが曲にサウンドを重ねたのか分からないけど、違ったテイクになっていて、そこが美しかった。音楽だけでみても、この映画はダントツのセンスだった。

日本公開は未定だけど、タイトルを覚えておいて下さい!

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5)トム・ヨーク、レディオヘッド『Motherless Brooklyn』『The Goldfinch』『Waves』

レディオヘッドの曲は今回観た映画の中では何作品かに使われていた。先に書いた『Waves』でも重要なシーンで使われているが、その他の2作は共通していて、偶然か必然か両映画とも水に潜る場面で使われていた。

a. まずは『Motherless Brooklyn』 だが、トム・ヨークがなんとこの映画のために“Daily Battles”を書き下ろしたというから驚く。


https://youtu.be/Fru8IkuDp_k

エドワード・ノートンが、ジョナサン・レセムによる同タイトルの小説を映画化したこの作品。ノートンは、90年代にレディオヘッドがR.E.M.の前座だった頃からのファンで、『OK コンピューター』発売直後、NYの1200人ほどのキャパの会場で観たライブの思い出をローリングストーン誌にも語っている。
https://www.rollingstone.com/music/music-news/edward-norton-thom-yorke-motherless-brooklyn-daily-battles-863783/

「まさか引き受けてくれるとは思っていなかったけど、トムには古風でメランコリーなバラードを書いてもらいたかったんだ」

ノートンがトムに脚本を送ってからわずか2週間で曲が送られてきたそうだ。

送られてきた曲を聴いて感動したノートンは泣き崩れたそうだが、映画のテーマでもある誰もが直面している「日々の闘い」という曲のタイトルを脚本の中に書き足したという。

1950年代のNYを舞台にしたノアールであるこの作品の中で、トムの曲は2回長く使われている他、ウィントン・マルサリスによるジャズ解釈も流れる。


映画全体はジャズをメインとしたサントラになっていて、ノートンが出演した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を少し彷彿とさせる。

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b.『The Goldfinch』も同タイトルの原作があり、ピューリッツァー賞を授賞した大ベストセラーだ。アンセル・エルゴート、ニコール・キッドマンなどが出演していて、監督は絶賛された映画『ブルックリン』のジョン・クローリーという、まさに才能が揃った作品。

地元の英雄ロビー・ロバートソン&ザ・バンドのドキュメンタリー映画で開幕。スプリングスティーン、NIN、レディオヘッド、ルミニアーズなど音楽関連の映画も次々上映。[トロント映画祭1] - pic by Akemi Nakamurapic by Akemi Nakamura

喪失を描いたこの作品の中で、主人公の少年が『ストレンジャー・シングス』にも出演していたフィン・ヴォルフハルトと大事なシーンでプールに飛び込むのだが、そこでレディオヘッド“Everything In Its Right Place”が流れる。記憶に間違いがなければ、そこでも曲のタイトルが台詞に組み込まれていたように思う。

予告編はこちら。

https://youtu.be/IcG06hZooHM

6)マイケル・ウィンターボトム監督『Greed』

これは番外編ネタだけど、『24アワー・パーティ・ピープル』を例に挙げるまでもなく、音楽のセンスが抜群のウィンターボトム監督。

この作品は音楽好きにはたまらないネタが満載すぎて大爆笑なのだ。

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スティーヴ・クーガン演じる億万長者が、60歳の誕生日パーティをミコノス島で行うのだが、ファストファッションについてや、タイトル通り欲に対する痛烈で痛快な風刺が描かれている。パーティで誰に歌ってもらうのかなどのやり取りがあって、エルトン・ジョンがいくらで、ロビー・ウィリアムスならいくら、など語られるシーンが大爆笑だし、クリス・マーティンなどが誕生日にビデオメッセージを送っていたりするのも超笑えるのだ。

さらに、ネタバレになるので言えないが、映画の最後の方に超大物ロックスターも登場する。セレブ文化に対する批判でもあり、みんなそれを承知で出ているところが監督への信頼だと思う。

予告編はこちら。

https://youtu.be/7NNZHlIoA4U
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