〈グラミー賞速報その2〉ビリー・アイリッシュがなんとテイラー・ホーキンスのTシャツで圧巻のパフォーマンスからウクライナ大統領のメッセージまで、グラミー賞ハイライト。

pic by Getty Images for the Recording Academy

今回のグラミー賞は、ラスベガスという場所で行われたからか、久しぶりに観客を入れて行われたか分からないけど、アーティストのパフォーマンスにいつも以上に熱の高いものが多かった。司会のトレバー・ノアが始まってすぐに「これは、授賞式ではなくて、主にコンサートでその合間に賞を渡すと思ってください」と自分から言っちゃっていたけどその通りだ。ライブが見どころ。

1)ビリー・アイリッシュの”Happier Than Ever”は、この日最高のパフォーマンスのひとつ。
ビリーがなんとテイラー・ホーキンスのTシャツを着てたから驚いたし感涙。ビリーはまだテイラー・ホーキンスについて何もメッセージしていないなあと思っていたのだ。ここまでの沈黙が余計に涙を誘った。それ以上に、このビリーのパフォーマンスが圧巻以外に言いようがない。新世代のアーティストのパフォーマンスの能力の高さと、いかにリアルな感情を表現しているのかの証拠でもあると思った。

こちら映像。

pic by Getty Images for the Recording Academy
pic by Getty Images for the Recording Academy
pic by Getty Images for the Recording Academy

ビリーは、元々全米ツアー中だったのだが、グラミー賞と重なる日だけ延期した。アカデミー賞が3月27日に開催され、そこでオスカーを受賞した後、3月29、30、4月1、2日とグラミー賞の前日までライブし、3日にグラミー賞。明日4日にはまたすぐにツアーが再開される。世界一の働き者だ。この最中にあんなにパワフルで魂を込めたライブをやるだけでもすごい。
pic by Getty Images for the Recording Academy

ちなみに、すでにグラミー賞常連と言えるビリー・アイリッシュはこの日7部門もノミネートされていた。が、なんと初めて1部門も受賞しなかった。去年は4部門で、レコード賞も含む2部門で受賞。2020年は、6部門で、主要4部門を含む5部門で受賞した。
pic by Getty Images for the Recording Academy

ちなみに、レッドカーペットはGUCCIを着ていることが多いビリーだがこの日は、珍しくリック・オウエンスのドレスだった。
pic by Getty Images for the Recording Academy

2)テイラー・ボーキンス追悼。
まず結局フー・ファイターズは登場しなかった。やはり精神的に無理だったのだろう。
しかし、亡くなった方達の追悼の部分がテイラー・ホーキンスの特別に長い映像で始まった。その後、スティーヴン・ソンドハイムの追悼のパフォーマンスにつながった。

フー・ファイターズは、3部門でノミネートされていたのだが、なんと、その3部門ともで受賞してしまった。当初2つという予想だったのだが。ロック・パフォーマンス、ロック・ソング、ロック・アルバムの3つだ。その受賞にも誰も表れなかった。

ただ、グラミー賞の前日に、ジョニ・ミッチェルトリビュートが行われたのだが、そこで娘さんのバイオレットが1人でパフォーマンスを披露していた。レッドカーペットでは、同じくパフォーマンスをしたベックと一緒に、母と妹と一緒に登場していた。だから、家族はみんなラスベガスには来ていたのだ。
pic by Getty Images for the Recording Academy

3)ジョニ・ミッチェルが超レアなTV出演
グラミー賞授賞式の前日にジョニ・ミッチェルへのトリビュートイベントが行われ、なんとジョニ・ミッチェル自身もパフォーマンスをした。

この日は、最優秀ヒストリカル・アルバム部門でも受賞。「まさかもらえるとは思えなかった。これで引退できると」とスピーチもしていた。
pic by Getty Images for the Recording Academy
pic by Getty Images for the Recording Academy
pic by Getty Images for the Recording Academy

4)ウクライナのゼレンスキー大統領が生中継でスピーチ
この日最も重い意味を持った瞬間。ウクライナのゼレンスキー大統領がスピーチをした。
映像はこちら。

5)オリヴィア・ロドリゴが圧勝のはずだったのに。
先日紹介したように、アメリカの大多数のメディアは、オリヴィア・ロドリゴが主要部門4部門を圧勝すると思っていたし、彼女にはその才能も人気も資格もあると思っていた。
https://rockinon.com/blog/nakamura/202138

オリヴィアは、7部門でノミネートされ、そのうち4部門が主要部門の、アルバム賞、レコード賞、楽曲賞、新人賞だった。
しかし結果は、新人賞のみで、その他は、ポップ・ボーカル・アルバムと、ポップ・ソロ・パフォーマンスの計3部門。もちろん新人で19歳でいきなり3部門は優秀だ。

しかし、彼女の作品こそ、2021年のサウンドだと誰もが認めていたのだ。これには言葉を失ってしまった。グラミー賞にまた期待した自分がバカだったと落ち込んだ。

これが、“drivers license”のパフォーマンス映像。
pic by Getty Images for the Recording Academy

スピーチでは、「9歳の時にお母さんにオリンピックの体操の選手になると言ったら、側転もできなかったので、冗談だと思われた。それにムカついて、次の週にグラミー賞を取ると言ったら、応援してくれた」と言って、お母さんにお礼を言っていた。
pic by Getty Images for the Recording Academy

オリヴィアはこの日ヴィヴィアン・ウエストウッドのドレス。アヴリル・ラヴィーンと2ショットも撮っていた。アヴリルがレッドカーペットでアルバムのデビューから20周年と言っていたけど、全く変わらないままなのでびっくりする。

しかしアヴリルとオリヴィアだけではなくて、オリヴィアから、ジョニ・ミッチェルに流れる場面もあって、音楽が引き継がれていくというのを映像で観せているようで素晴らしいと思った。
pic by Getty Images for the Recording Academy

6)オリヴィアの代わりに主要部門取ったのは誰だったのか?
オリヴィアが取るはずだったアルバム賞、レコード賞、楽曲賞を取ったのは、

ーアルバム賞がジョン・バティステ
彼は、今年驚きの最多ノミネートで11部門中、アルバム賞を含めた、5部門で受賞した。そのうちのひとつは、ピクサー映画の『ソウルフル・ワールド』の音楽で、これは、トレント・レズナーとアッティカス・ロスも受賞。2人とも会場には来なかった。

ジョン・バティステが、最多部門ノミネートされるとは誰も思っていなかったのに、アルバム賞まで取るとは誰1人として予想していなかった。彼の作品をNYタイムズのチーフライターも思慮深い作品とは言っていたけど、誰も、2021年を代表する作品とは思っていなかったと思う。

彼が、ビリー・アイリッシュや、オリヴィア・ロドリゴもノミネートされていたミュージック・ビデオ部門で受賞した時めちゃくちゃ嫌な予感がしたのだが、その予感が的中した。この結果は衝撃であるばかりか、グラミー賞への不信が再び募る結果となった。何かしらの力が働いているとしか思えない。
pic by Getty Images for the Recording Academy

ーレコード賞と楽曲賞はシルク・ソニック
シルク・ソニックは、4部門ノミネートされて、主要部門の2部門を含む全部門で受賞。アンダーソン・パークが、自分で「総なめ」と言ってしまっていたけど、実際そうだ。今年の授賞式の始まりが、彼らのパフォーマンスだったことで少し悪い予感がしたのだけど、主要部門が、ジョン・バティステとシルク・ソニックとは。これも誰も予想していなかった。シルク・ソニックが1部門くらい取るかもと予想していた媒体がひとつくらいはあったかもしれない。

NYタイムズがライターの対談で、シルク・ソニックはスムーズすぎて時代に引っかからないと言っていたけど、正に。どんなに音楽が良質でも、2021年を象徴するんだろうか?に尽きる。授賞式では、前半の新世代のパフォーマンスが素晴らしかっただけに、グラミー賞のおっさん達が選んだこの結果には、言葉を失った。一体誰のためのグラミー賞なんだろう?ってもう何年も言っている。
pic by Getty Images for the Recording Academy

7)カニエも、タイラー・ザ・クリエイターと、ケンドリックも来なかったラップ部門。ザ・ウィークエンドは作品提出してないのに受賞。
終わってみればこんな結果で、ラップ部門の大多数が欠席だったがそれで正解だったように思う。

カニエ・ウェストは来なかった。が、5部門でノミネートされ2部門で受賞。笑ったのが、そのうちの1曲”Hurricane”をザ・ウィークエンドも共作していたため、もうグラミー賞には提出しないと言っていたザ・ウィークエンドがいらないのに自動的に受賞してしまったこと。

ータイラー・ザ・クリエイターは、見事ラップ・アルバムを受賞したが、欠席。
インスタライブで受賞スピーチをしたのが彼らしくクールだった。水色のマニキュアも素敵だった。

ーラップ・パフォーマンスで、Baby Keemとケンドリック・ラマーが受賞したが、ケンドリックは来なかった。こうやってどんどん欠席するようになってしまうのだと思う。
pic by Getty Images for the Recording Academy

Nas
多くが欠席の中で、Nasが、ロバート・グラスパーも参加したフルバンドを従えたメドレーを披露し絶賛された。
“I Can” から、”Made You Look” “One Mic” “Rare”をパフォーマンス。
去年はラップ・アルバムで初のグラミー賞を受賞したが、今回は2部門でノミネートされ受賞しなかった。

-Lil Nas X
Nasと言えば、Lil Nas X。過激なことをせずして堂々の貫禄あるパフォーマンスを見せて感激した。
pic by Getty Images for the Recording Academy

レッドカーペットのBalmain も可愛かった。
pic by Getty Images for the Recording Academy

ジャスティン・ビーバー
レッドカーペットと言えば、ジャスティン・ビーバーのバレンシアガが似合ってた。
pic by Getty Images for the Recording Academy

パフォーマンスではキャップをかぶって、グランドピアノでバラードというのがクールかつ彼の真の才能と実力が光っていた。
pic by Getty Images for the Recording Academy

ーラスベガスという土地柄にぴったりのレディー・ガガのパフォーマンスだった。
pic by Getty Images for the Recording Academy

ー時代を象徴しないと思われるものがある中で、去年軒並み評価の高かったJazmine SullivanがR&Bパフォーマンスでグラミー賞のお気に入りのシルク・ソニックとタイで受賞し、なんと、R&Bアルバム賞ではこれまたグラミー賞のお気に入りのH.E.R.とジョン・バティステを破っての受賞は快挙だと思う。
pic by Getty Images for the Recording Academy

日本ではオンディマンドで配信中。

その他にも見所はあったのだけど、とりあえずこのへんで。



ロッキング・オン最新号は4/7発売です。ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。【予約購入できます】


中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事