U2が、ラスベガスで『アクトン・ベイビー』レジデンシー発表。没入型新会場が前代未聞の最新技術。スピーカーもない?! ボノは現在NYでその逆の1人ライブ開催中で観てきた。

U2が、ラスベガスで『アクトン・ベイビー』レジデンシー発表。没入型新会場が前代未聞の最新技術。スピーカーもない?!  ボノは現在NYでその逆の1人ライブ開催中で観てきた。

U2がラスベガスに建設中のThe Sphere(天体)と呼ばれる画期的な新会場で、9月29日から『アクトン・ベイビー』レジデンシーライブを行うと発表した。キャパは2万人で、当初5日間で発表。そりゃないだろうと思ったら、早速追加して現在計12日公演=約24万人となっている。チケット発売後にまだまだ増やすと思う。

『アクトン・ベイビー』は、1991年に発売されたので、30周年は厳密には2021年だが、ご存知のようにパンデミック中でツアーはできなかったので、今年になったのだと思う。また、ボノがApple Musicのインタビューの中で語っていたけど、『ヨシュア・トゥリー』の際は、世界ツアーをしたけど、『アクトン・ベイビー』は、このラスベガスでのショーだけになるということ。

なので、世界中からファンが集まってくるわけで、チケットが取れる気が全然しない(汗)。

ライブの内容としては、ジ・エッジがローリングストーン誌に語ったところによると、当然『アクトン・ベイビー』の曲が披露されるのだけど、必ずしも、アルバムの曲順に演奏されるとは限らないと。また、『Zoo TVツアー』のリバイバルにもならないそう。もちろん『Zoo TV』を思い出すような映像を使うかもしれないけど。当時のスクリーンの大きさとこの会場でできることを考えても全く違うものになる、と。

それで、この新会場がすごいのだ。

ボノとジ・エッジがApple Musicのインタビューでこの会場を訪れている。これが予告編。

インタビュー全編の内容もめちゃくちゃ面白い。前半はこの新会場についてで、後半は『アクトン・ベイビー』とラスベガスについて語っている。

ボノ曰く「U2のコンサートのコンセプトはいつでも最悪(または一番値段の安い)席の人達が最高の席であること。だけど、この会場がその関係性を大きく変えてしまう(笑)」。

「僕らが通常ライブをする会場のほとんどはスタジアムやアリーナであって、スポーツを行うために作られたものだ。だけどこの会場は最初からコンサートやアートのために作られている」

ジ・エッジは「この会場は世界最高のサウンドを目指すことが最優先で作られている」と。
驚くのは、ボノ曰く「会場にはスピーカーがないんだ。会場全体がスピーカーになっているから。だからどこに座っていても、最高のサウンドが聴ける」と言っていること。
また、ジ・エッジは「360度でサウンドが聴けるようになっているから、観客はサウンドに没入するような体験となる」

映像についても、ボノが「全ての席で、地球上最高の画素数の映像が観られる」と。

つまり、映像もサウンドも世界最高質にして、どこでも体験したことがないライブとなる。

ボノは、「僕らにとって面白い挑戦となるのは、ロックンロールというのは、ある程度のコンプレッションとディストーションが当たり前になっていること。だけど、ここでのサウンドシステムが良すぎたら、弱点が聴こえてしまうかもしれない。ディストーションというのは、ロックンロールの言語のひとつであり、だからディストーションを取り除いてしまったら、ロックンロールを取り除いてしまうことになる。だからここで演奏する時に、ニール・ヤングが、Messy Hall ライブだったかな、アコースティック演奏した時、全てが聴こえるよね。アコースティックで演奏した時はああいうサウンドにできたら嬉しいと思う。だけどボリュームを最大限にした時は、ディストーションが聴こえるようにしたい」。

さらに、ボノは、最新技術によるスペクタルも大事だけど、最終的に一番大事なのはこの会場で「より大きなエモーションがもたらせること」だと語っている。

U2に以前インタビューした際に、バンドがどれくらいサウンドに拘っているのかを声を大にして言っていて、ボノは、「日本の観客は、最高の音でライブを観る権利があるんだ」と力説していたのが忘れられない。実際これまでのU2のライブでは、今となっては当たり前なシースルーのスクリーンを初めて観たし、ARをコンサートで初めて観たのもU2だったし、ツアーでどの席でも同じように良い音で聴こえるように会場に独自のスピーカーを設置したのもU2だった。

『ヨシュア・トゥリー』ツアーの際は、当時は史上最高に大きいスクリーンで最高画質の映像を観られるようにした。彼らが開発した技術をその他のバンドがその後使っていることが多かったので、今回の新会場も当初U2が一から作ったのかと思ってしまったくらいだった。彼らが常日頃拘ってきたことが、ここで全て叶えられている。なので、彼らほどこの会場のこけら落としにふさわしいバンドもいないのだ。

さらに、インタビューの後半では『アクトン・ベイビー』や、ラスベガスについても語っていて、”I Still Haven’t Find What I’m Looking For”のMV撮影、エルヴィス・プレスリーと”The Fly”の誕生や、フランク・シナトラとの思い出話も面白くて、ますますこのライブをU2がラスベガスでやるのはふさわしいと思える。

ちなみに、当初から言われていた通り、ドラムのラリー・マレンJr.は手術をしてその回復に専念するため、今年はライブには出演しない。なので、この画期的な会場でのライブも、ドラムは、ブラム・ファン・デン・ベルフが務めることになる。残念だけど、何よりラリーの回復を祈りたい。

チケットの販売の仕方に関してかなり感動したのは、昨今のアメリカのチケットマスター問題にしっかりと対処してくれていること。

まず、こんな貴重なライブ、チケットの値段は500ドルくらいなのではと思ったのだけど、なんと一番安いチケットは、$140から始まり、チケットマスターの販売で問題になっているチェックアウトする時にいきなり知らなかった手数料がドカンと追加されていることがないようにするということ。なので、値段は最初から全額表示される。

さらにチケットマスターは、現在定価で発売するチケットの割合を不透明しているのも問題となっているのだけど、U2は既に全体の60%が、$300以下のチケットであると発表。そして、一番問題となっているチケットの価格が人気によって変動する”ダイナミック・プライシング”だが、それはゼロにはしないで、少しだけ取り入れるということ。ただ、ダフ屋行為を避けるため、行けなくなった人は、ファン同士で定価でやりとりをするサイトも設定するそうだ。どちらにしても、チケットは取れそうにない。


●この新会場でのライブを前にして、ボノは、現在1人でNYでレジデンシーライブを行っているので観てきた。

TV出演した際のパフォーマンスでこのライブの様子が少し分かると思う。簡単に言えば、自伝から文章を読み上げて、その箇所に関係する曲を歌い始めるというものだ。

これは、世界最新型の没入型ライブとは真逆の内容と言える。ボノは、去年自伝『Surrender: 40 Songs, One Story』を発売した際、世界ツアー”Stories of Surrender”を15日間行ったのだけど、チケットが即完したためNYに再び戻ってきて、ビーコンシアター(キャパ2800人)で11回公演を行っている。ただ、最新技術のライブと多分同じなのは、その親密性だろう。

自伝を出して、1人でライブをするというのは、ブルース・スプリングスティーンも、デイヴ・グロールもやって、今回はそのボノ版だったわけだけど、三者三様なのもまた面白かった。

ボノの場合は、ボノ以外のミュージシャンはステージに3人。ストリングスのGemma DohertyとKate Ellisと、長年のコラボレーターのジャック・ナイフ・リー。またセットについても、ボノも言っていたけど、「U2の時は巨大なレモンを飾ったりしてきたけど、今回は1人だから予算がないと言われたので、机と椅子だけなんだ」と本当に机と椅子とソファだけがあって、しかしスクリーンが2枚背景に吊り下がっていた。そこで、ボノが描いたその時の状況を伝える絵が映し出された。

ライブは、ポエトリーリーディングのようでもあり、ブロードウェイのワンマンショーのようでもあり、時にオペラのようでもあり、とにかくボノが朗読するわ、歌うわで、2時間みっちり動き続けるので、ものすごい運動量だ。

ただ、興味深かったのは、どんなにステージをシンプルにしても、サウンドをストリングスにそぎ落としても、ボノのボーカルが、例えばスプリングスティーンとか、デイヴ・グロールのように弾き語り調になるようなことは少なくて、最初はスロウにシンプルに歌い始めても、歌い終わる頃までには、やはり長年ステージで観てきたロックスターのボノになってしまっていたこと。

つまり、それをたった3000人弱の会場でこれ以上ない間近で観られたことが非常に貴重だった。ロックスター ボノが、より人間ボノに感じられる距離で目撃できた超貴重なイベントだったのだ。また、始まる前に会場の観客を観ていたらやはり白髪になっているような人達もたくさんいて、こんなに歳を取っても、自分が好きだったロックスターが、いまだこれまでも観たこともないようなライブに挑戦し続けているなんてなんて幸せなんだろうとも思った。

そしてこの次は、さらに世界で誰も観たこともないような会場でライブをやるのだ。U2の前進に感動する。Apple Musicのインタビューの中で、「これが失敗したらジ・エッジと名前を記して逃げる」的なことをボノが冗談で言っているのを見て思い出したけど、実際U2がやってきたことは常に成功ではない。iTunesにアルバムを自動的にDLしたのも不評だったし、私も観たけど、ブロードウェイで『スパイダーマン』をプロデュースした時も不評だった。でも常に新しいことは挑戦し続けている。

そう言えばこの会場こそ、ビョークがこの間日本でもやった『コーニュコピア』が目指していたものをそのままではないかと思う。ビョークがこの会場でやるかは分からないけど、これから様々なアーティストがこの会場でライブをやるだろう。ライブ体験は、まだまだ急激に進化し続けている。

ボノのソロライブのセットリストは以下の通り。
City of Blinding Lights
Vertigo
With or Without You
Into the Heart
Out of Control
Stories of Boys
I Will Follow
Iris
Gloria
October
Sunday Bloody Sunday
Miss sarajevo
Pride
Where the Streets Have No Name
Desire
Beautiful Day
Torna a Surreiento (Ernesto De Curtis cover)



ロッキング・オン最新号(2023年5月号)のご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。

U2が、ラスベガスで『アクトン・ベイビー』レジデンシー発表。没入型新会場が前代未聞の最新技術。スピーカーもない?!  ボノは現在NYでその逆の1人ライブ開催中で観てきた。
中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする
フォローする