ビリー・アイリッシュが『バービー』と自分を重ねて自分の存在意義を問うめちゃくちゃ悲しい新曲を解禁。MVでバービーの箱から出す着せ替えの服は全部ビリーが着た衣装。


ビリー・アイリッシュが映画『バービー』のために書いた新曲”What Was I Made For?”を解禁した。MVはいつものようにビリー本人が監督している。

ビリーはこの曲についてのコメントを発表している。

「”What Was I Made For?”は、私たちが作った『バービー』の曲で(ビデオも)今発表された。
1月にグレタ(・ガーウィグ監督)が、私とフィニアスにまだ完成していない映画のシーンをいくつか観せてくれた。私たちは、一体どんなに映画になるのかまっっっっっっったく予想していなかったのだけど….本当っっっっっっっに心から感動した。それで次の日に曲を書き始めたんだけど、映画がどれだけ素晴らしかったのかって話をやめられなかった。それでええええええええええ結局曲をその晩のうちにほぼ書き上げてしまった。正直言って、この曲は、私にとって本当に必要だった時に、書けた曲だった。だからこれを書けたことに本当に感謝している。

このビデオを見ていると自分でも泣いてしまう。自分にとってもすごく意味があるから。みんなにとっても同じだと嬉しい。それ以上説明しようがないのだけど、ビデオ自体が多くを語ってくれていると思うから。楽しんで」

それで、このMVが切ないのだけど、ビリーがバービーの箱の中から出してひとつひとつ見ている着せ替え用の服は全部ビリーがこれまでに着たアイコニックな衣装の数々なのだ。さらに歌詞では、バービーと自分を重ねて歌っていて、これはシンプルながら死ぬほど悲しい。世界で最も知られている人形であるバービーと、ものすごい勢いで世界的大スターになってしまったビリー。ビリーが自分のアイデンティティと存在意義を問いかけている曲でもあり、バービーが自分というのはいったい誰なんだと、リアルな人間の世界に旅に出て探すという映画の物語と完全に重なっている。


歌っているのは以下のような内容だ。

しかもApple Musicのインタビューでは、この歌詞は「全ては私が本当にこのように感じていること。私の人生についてだから」と繰り返して強調して語っている。さらにこの曲は、ちょうどビリーとフィニアスが全く曲を書けなかった時に書けた曲で、さらに、内容的にも、これまで彼女が書けなかったような内容で、映画の世界観があったおかげでそれを書くことができたのだと。

「これまでは浮いていたはずなのに、今はただ沈むだけ
これまでは分かっていると思っていたのに、今はそれも確かじゃない
私は一体なぜここにいるの
私は一体誰なの?」

「自分は生き生きしていると思っていたのに 実は私はリアルじゃなかった
誰かがお金を払ったからいるだけ
私は一体誰なの?

私は
感じ方が分からなくなってしまった
頑張りたいけど
感じ方が分からなくなった
いつか 感じられるのかも
いつか たぶん

全てが楽しかったはずなのに それはいつ終わってしまったんだろう?
また悲しくなってしまった」

「幸せのなり方を忘れてしまった
今はそうじゃないから でもいつかはなれるはず
そうなりたい
そのために生まれてきたはずだから
そのために生まれてきたはずだから」

最後が少し希望があるのがさすがビリーでそれが救いで泣ける。

pic by JACK BRIDGLAND

Apple Musicのインタビューで、感動することをいくつか言っている:

●映画を観た次の日に違う曲を作っていて(新作)、とりあえず今日はもうこれ以上思いつかないからこれくらいにしておくか、と思ったところで、
フィニアスが「『バービー』の曲書いてみる?」と言ったそう。ビリーは、『NO TIME TO DIE』の曲を作るのにも1ヶ月くらい準備をしたのに、そんなにすぐに作れるわけがないと思ったのだけど、フィニアスが、この曲のオープニングのピアノを弾いてその瞬間に最初の歌詞が自然に出てきたのだということ。びっくり!

ビリーもすごいけど、やはりビリーをプロデュースするフィニアスがすごい。この曲の話も、インタビューを聞いていると、まずフィニアスがマーク・ロンソンとグレタ・ガーウィグと話をしていたというのがわかるから。彼が今彼女に作れるのか、どのタイミングで言えばいいのかを考えているのだと思う。それはドキュメンタリー映画の中でも少し出てきたけど。生まれ時から一緒にいるから出来ることで、本当にビリーは恵まれている。

●また去年の冬は二人とも珍しくインスピレーションが湧かなくて、曲が作れなかったのだそう。そしてこの曲がそのライターズブロック的なものから抜け出す曲となり、久しぶりにできた曲だった。だから上のコメントで「必要だった時に書けた曲」と言っているのは、「もう曲が書けないのかと思った」時だったからと意味もあると思う。

「もう自分には曲が作れないのかと思っていたところを、バービーとグレタが、自分の中からこれを引き出してくれた」と。良かった。

●またインタビューの冒頭では、これは全部自分のことだと言っているけど、「曲を書いている時は全部自分のことじゃなくてバービーのことだと思って書いていた。それで完成して車の中で1日中聴いていたら、『これは自分が今思っていること全てそのままだ』と気づいた。しかも自分で言うつもりでもなかったことだった。つまり、自分を第三者として客観的に見て描いたもので、その人にすごく共感できると思っていたら、それが自分だったということ」。

●近況。冬は、自分が作った曲を、誰も好きになってくれなかったらどうしようなど、ものすごいプレッシャーがあって、曲が書けなかった。今は良い状況になったのだけど、そのきっかけのひとつは、共演もしたLabrinth が、「人がどう思おうと気にすることないよ。自分が作りたいもの作ればいい」と言ってくれたこと。すごくシンプルなことなのにその時の自分には見えていなかったから、「あ、そうだ」と思えたと。実際バービーの曲も、使ってもらえるかどうかは分からなかったけど、自分たちが本当に作りたい曲を作ってみた。

バービーのサントラの話が良いタイミングで来て本当に良かった。ビリーが救われた。

ちなみに映画で、バービーを演じたマーゴット・ロビーは、ビリーの曲のシーンで泣いたと言っていた。

MVに出てくる着せ替えの服は以下出てくる順番で実際に着たもの。

1. 黄色の上下:“Bellyache” MV

2. 白のシャネルパンツスーツ:2020年オスカーのレッドカーペット

3. 黒にチェーン:”Lovely” MV

4. 黄色とグレーのカモフラージュ:2017年MTV(ビリーは当時15歳!)

5. 白の上下:”When the Party’s Over”のMV

6.黄色の上下:”Bad Guy”のMV

7. 黒のグッチ:2020年グラミー賞(主要カテゴリー4部門全部受賞し計5つ受賞)

『バービ』のサントラについては以前もご紹介したけど、
https://rockinon.com/blog/nakamura/206746
ここからさらに、最近ではライアン・ゴスリングの曲”Just Ken"の映像が公開。おもしろすぎるのとスラッシュがギターで参加している。プロデューサーのマーク・ロンソンの子供の頃のヒーローで、曲を送ってみたら、「良い曲だね」と弾いてくれたのだそう。

またサム・スミスがケンの立場から歌った”Man I Am”という曲も収録されることが判明した。マーク・ロンソン曰く、「ものすごく壮大なセクシャルなシンセポップ」だということ。それもまたなかなか面白い。どのように映画に使われているのか楽しみだ!



ロッキング・オン最新号(2023年8月号)のご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。

中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事