デヴィッド・ボウイの“サンデー”を聴く

デヴィッド・ボウイの“サンデー”を聴く

「何も残ってない」(Nothing Remains) という言葉から始まる“サンデー”、
訃報から1週間、まだ宙に浮いたままのような気持ちの日曜日に聴く。

2002年にリリースされた『ヒーザン』について、デヴィッド・ボウイは「新しいスタートだ」とインタヴューで語っていた。
「このアルバムを作り終えて、スタジオを出た時、正直、僕は自分の将来に希望を抱いたんだ。この先何年間かの自分がすごく楽しみだ、ってね」と。

と同時に、これは「不安」について歌われたアルバムでもある。

「僕が今不安に思っていることって何だろう? 僕が家族のために心配していることって何なんだろう? 僕は今どこにいるんだろう? そして、僕はよりよい未来を手にする権利があるはずだ!(笑)そういう思いをこのアルバムに託したんだ」
50代半ばの、ひとりの人間としてのボウイのリアルが詰まったアルバムだ。

「恐れの中で 平和だけを求めよ 恐れの中で 愛だけを求めよ 翼にのるように」

と自身に言い聞かせるようなコーラスが心に染みる。

20年ぶりにトニー・ヴィスコンティをプロデュースに迎え、ピート・タウンジェントやカルロス・アロマ―、デイヴ・グロールも参加した『ヒーザン』。ピクシーズやニ―ル・ヤングのカヴァーも収録されている。
ソングライティングやサウンドはもちろんだが、ボウイのヴォーカルが本当に素晴らしい。
もしもまだ聴いていないなら、ぜひ聴いてほしいアルバムのうちの1枚。
というよりも、今この時代にこそ聴くべきアルバム。ボウイの他の多くの作品がそうであるように。

「どうかこの世界をばらばらに引き裂かないで」(“ベター・フューチャー”)という願いで、このアルバムは幕を閉じる。
(井上貴子)
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