彼の作品はこれまでも何度かノミネートされていたものの、最優秀賞に輝いたのは“ブルー・ジーン”のミュージック・ヴィデオのみで、正直やや複雑な思いもあるが、この作品が歴史に刻まれ、彼を知らなかった人にも、そして何度でも、聴き継がれることはとても嬉しい。
かつて『ジギー・スターダスト』を、自分の好きなものを全部詰め込んだアルバム、と彼は語ったが、
『★』もそれと同じくらい、ボウイの新しい音楽的冒険と、彼が好きだったアイテムや美学がつまっている。
たとえばミュージック・ヴィデオに登場する宇宙服の髑髏は、“スペイス・オディティ”で宇宙に放り出されたトム少佐の亡骸を思わせる。
尻尾を持った少女は、ボウイ自身が、“デッド・マン・ウォーキング”のMVでゲイル・アン・ドーシー(ベース)のためにデザインした衣装に似ている(“デッド・マン~”の衣装は、ボウイ展に展示されていた)。
あるいは、“ファッション”のMVでもおなじみの、痙攣のようなダンス。
三角形の木組みの部屋は、WOWOW特番ドキュメンタリー「デヴィッド・ボウイの愛した京都」を観ていて、はっ!とした。お坊さんがいる部屋とそっくりなのだ(4:38あたり)。
http://www.youtube.com/watch?v=JHuj9vyA3O8
そんな風に観るたびに新しい発見がある。
ちなみに今日はバレンタインで街はハートにぎわっているが、
ボウイにも“ヴァレンタイン・デイ”(『ザ・ネクスト・デイ』収録)という曲がある。
しかし、もちろん単純なラヴ・ソングではない。
美しいメロディに反して、この曲のテーマはシリアスで重い。“ヒーローズ”よりもっと。
この時期から、ボウイはインタヴューを受けることはなかったが、
プロデューサーのトニー・ヴィスコンティによると、アメリカの学校で起こっている銃乱射事件をモチーフした、と言われている。
MVの、廃墟の学校を思わせる撮影場所も、ギターを掲げたシルエットも、銃を手にしたようなポーズも、それを暗示している。
そんなボウイのメッセージを、このバレンタインに送りたい。
大回顧展「DAVID BOWIE is」では今日までバレンタイン企画として、抽選でチョコレート・プレゼントをやっているそうだ。行きたかった…。(井上貴子)