「ロックなんか退屈だ。
僕は退屈だと思う。だってほんとにゴミ音楽じゃないか!」
ポップ・ミュージックのすべてを変えた、レディオヘッドの歴史的傑作/問題作『キッドA』そして『アムニージアック』。
その衝撃の本質とは何だったのか。そしてそれは2021年『キッドAムニージア』によってどう蘇るのか
──『キッドAムニージア』徹底解説 文=粉川しの
ポップ・ミュージックの宿命なのか、名盤と呼ばれるアルバムであっても時代と共に聴かれ方は変わるし、時代性との相関関係、相対評価から逃れることは簡単ではない。レディオヘッドも例外ではない。例えば『OKコンピューター』がリリースされた時の衝撃は徐々に薄れ、過渡期の一作としての評価(それでも傑作には違いないが)に落ち着きつつあるのに対し、発表時の良作としてのマイルドな評価から一転、その完成度の高さによって由緒正しき名盤の風格を纏い始めたのが『イン・レインボウズ』だったりもする。
しかし、そんなレディオヘッドの作品の中でも発表から20年以上が経った今なお、絶対評価による傑作としての地位が一切揺らいでいない稀有なアルバムが『キッドA』だ。21世紀においてこれほど時代性の極値を鳴らしたものも珍しいし、ロックに過酷な自己批評を突きつけ、ギターを無邪気に弾いていた季節を一撃で終わらせた破壊者でもあった『キッドA』が、それでも反動を生まず、再評価の付け入る隙も与えず、今なお凍えるような孤高と共に屹立している様には驚嘆せざるをえない。
レディオヘッドは2017年に『OK〜』の20周年記念盤『OKコンピューター OKNOTOK 1997 2017』をリリースした。だから昨年も『キッドA』20周年で何かあるだろうと思っていたが、結局それは今年、双子アルバム『アムニージアック』の20周年に合わせて2作品をコンパイルしたボックス・セット『キッドAムニージア』として実現した。
『キッドA』、『アムニージアック』の2CDに加え、当時のB面曲や別バージョンを収録したボーナス・ディスクからなる3枚組で、目玉は未発表曲の“イフ・ユー・セイ・ザ・ワード”と“フォロー・ミー・アラウンド”が収録されたことだ。特に“イフ・ユー〜”はライブでも一度も披露したことがない、レア中のレア曲だ。
『OK〜』期の“リフト”と同様に、『キッドA』/『アムニージアック』期のセッションが生んだ秘宝である“イフ・ユー〜”は、茫洋たる哀しみに浸るトムのボーカルは『OK〜』的で、ミニマルな寂寥のギターは“ハウ・トゥ・ディサピアー・コンプリートリー”を彷彿させ、オンド・マルトノの不吉なドローンは『アムニージアック』的でもある。《もし君がそう言ってくれるなら、僕はすぐに君の元に駆けつけるのに》と歌う歌詞は、この時期の曲としては素直な感情の吐露になっていて意外に思えるが、もちろんそれは絶対に「そうならない」ことを前提とした「if」だ。新たに制作されたMVの「森の中へ逃げ込んだビジネスマンが捕獲され、都会に放たれる」というブラックな仕上がりも含めて、やはりどこまでも『キッドA』時代の産物なのだった。(以下、本誌記事に続く)
<コンテンツ紹介>
★『キッドAムニージア』徹底解説レビュー
★ 2000年10月号トム・ヨーク・インタビュー再掲載
レディオヘッドの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。