「曲がカウントインされた瞬間、全員が一緒になって……
ものすごい情熱と気迫が生まれる(笑)。自分たちのやっていることが大好きだったよ。
一緒に演奏するたびに、他のことはすべて忘れていたから。
僕らはただのバンドであり、一緒にプレイしていた。
そしてそれが、いつだって、ものすごく特別なものだったんだよ」(ポール)
ザ・ビートルズの『レット・イット・ビー』とその同名映画はこのバンドの終焉を刻み込んだ、悲しみの記録として記憶されている。実際には1969年初頭にこのプロジェクトに取りかかり、いったん頓挫するとバンドは『アビイ・ロード』を新たに制作し、69年9 月にリリースされると大絶賛を呼ぶヒット作となった。その後、実質的な解散が明らかになった70年4 月の翌月、『レット・イット・ビー』はようやくリリースされた。
もともとこのアルバムは「ゲット・バック」という原点回帰的な試みで、大掛かりなライブを実現させてそれを作品化するという趣旨だった。しかし、意見の食い違いから、スタジオ・ライブ・アルバムの制作とそのメイキング・ドキュメンタリーという形へと流れ、それが『レット・イット・ビー』というアルバムと映画になったのだ。
特に映画では、序盤のリハーサル風景のメンバー間のよそよそしさや意見の衝突、さらにレコーディング風景でも、メンバーがてんでばらばらな様子で捉えられているため、なにやら不穏な佇まいを感じずにはいられなかったし、この映画公開時にはすでにビートルズは公にも解散していたので、なおさらその暗いイメージは増長されるだけだった。
ただ、この映画の見どころは、あくまでもバンドがついにライブ回帰を実現させる、終盤の「ルーフトップ・コンサート」で、このくだりはとてつもないカタルシスをもたらすものになっていた。それはメンバー全員がビートルズというケミストリーをライブ演奏で発揮して、それを楽しんでいるのが五感として感じられたからだ。アルバム『レット・イット・ビー』も、本来の魅力はそこにある。ただ、これまではビートルズの崩壊と解散という文脈があまりにも偏重されて語られてきてしまったのだ。
今回の『レット・イット・ビー』のニュー・ミックスは、改めてこのアルバムの魅力を伝えるものだ。そして、今回新たに用意された『ザ・ビートルズ:Get Back』というドキュメンタリー作品と書籍は、ビートルズ自身の魅力を捉え直すものになっている。バンドとしては解散を予期しながらも、実際の活動においては仲間であり続けていた彼らの姿をうつしだすものだ。
意見の衝突や不和がありながらも、バンドとしての演奏に喜びを見出すその姿こそが今回、見直されているところだし、今回の特集で伝えたいところだ。 (高見展)
<コンテンツ紹介>
★ ポール・マッカートニーの証言も交えた映画『ザ・ビートルズ:Get Back』の決定的ドキュメント
★ 松村雄策寄稿「追憶の『レット・イット・ビー』と『ドント・レット・ミー・ダウン』」
★『 レット・イット・ビー』スペシャル・エディション 完全レビュー
ザ・ビートルズの特集は、現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。