8月11日に開催した日比谷公園野外大音楽堂でのワンマンライブ、そして苦悩しながらも変化していった心境、解散直後は直視することを避けていた節もあるBiSHへの思いなど、このインタビューでもアユニはとても素直に今感じていることを話してくれた。
インタビュー=小川智宏 撮影=sotobayashi kenta
──まずは8月の野音ワンマンの話からしたいんですけど、すごくよかったですね。自分はちっぽけだけど夜明けを待ってるし、ずっと暗がりってことはないんだなって
やったー!
──今まで観てきたPEDROのライブの中でも特に力強いパフォーマンスを見せていたし、ステージも客席も空気が違った感じがしました。
正直自分としては反省点が多くて、「やりたいことが増えたな」っていう印象が強かったんです。あまりにも突然決まった野音ライブだったから、今ある課題と不安をとにかくひとつずつ潰していかなきゃいけないなと思って、決まってからの1ヶ月半を過ごしてきて。最初は不安のほうが大きかったんですけど、とにかくやることをやった結果、そう思ってもらえるステージだったならよかったです。
──夏の野音だとまだ明るいうちからライブが始まるから、お客さんの顔もよく見えたと思うんですけど、どうでした?
お客さんが前向きな表情でこっちにエネルギーを放ってくれているのがわかって、純粋に嬉しかったです。野音までの1ヶ月くらいライブがなかったんですけど、極端な人間なので「野音があるから人と会わない、遊ばない」みたいな生活を送っちゃっていて。だから、ステージに立って1曲目を歌い出したら脚が震えてしまって、人のエネルギーってすごいなって実感しました。
──でも、客席から見たアユニさんはすごく楽しそうでしたよ。
おお、楽しそうでした? ならよかったです。でも、確かに楽しかったんだと思います。感情を感じられる余裕は正直なかったんですけど。
──本編も素晴らしかったけど、アンコールで『ちっぽけな夜明け』の曲を全部やったじゃないですか。あれはどうでした?
元々は野音でやるなんて考えてもいなくて、「次のツアーでこの新曲たちを育てていくぞ」と思って作っていたんですけど、制作が終わる頃に今回の野音が決まったんです。しかもライブのタイトルも「ちっぽけな夜明け」を掲げることになって、いろいろなことに気づかされて──自分はちっぽけだけど夜明けを待ってるし、ずっと暗がりってことはないんだなとか、人の温かさとか、勇気を出した先にある未来の希望とか──そういうものにこの数ヶ月で気づけたんです。曲ができたてホヤホヤの時は正直まだ自信を持って歌えないという不安があったんですけど、本番はその不安がまったくなく、地に足がついた状態で歌えましたね。
──「勇気を出す」っていう言葉も出てきましたけど、PEDROはYouTubeにドキュメンタリーをアップしていて、その中では自分のことやバンドが置かれた状況について、普通だったら隠しておきたいようなことも含めてかなり赤裸々に話していますよね。そうやって全部オープンにしていくことは、まさに勇気を出すことだと思うんですが。少し勇気を振り絞って自分の気持ちを伝えてみるようにしたら、思っている以上に真剣に向き合ってくれて。手を伸ばした時に手を握り返してくれる人がいるんだなって
私は仕事でもプライベートでも、あけっぴろげな表現者として立っているように見えて秘密主義というか、自分のことは話したくないし、話したとて誰にもわかってもらえないって勝手に塞ぎ込んでしまう癖があって。10年くらいずっとそうだったんですけど、今回の『ちっぽけな夜明け』の制作を始めた時に、「それじゃダメだな」って思うきっかけがあったんです。マネージャーさんやレーベルの方と話していく中で、自分が好きで選んでPEDROをやっている以上、「できる限り私を出していかなきゃ私はなんのために生きてるんだろう」っていう気持ちになったんですよ。そこから少し勇気を振り絞って自分の気持ちを伝えてみるようにしたら、身近にいる人もチームのスタッフさんも自分が思っている以上に真剣に向き合ってくれて。手を伸ばした時に手を握り返してくれる人がいるんだなって実感して、もっと大事にしていかないとって考えさせられました。ありのままの自分を出さないと意味ないなって、表現の仕事10年目にして気づきました。
──実際、今作では自分のこと、自分にすごく近いことを曝け出す勢いで書いていますよね。そういう歌詞を書くのはこれまでとはまったく違うものだったと思いますけど、どうでした?
バカ苦痛でしたね(笑)。一睡もできないくらい……っていうのは言いすぎですけど、朝5時まで歌詞を書いて、赤窄(諒/アユニ・D個人事務所「浪漫惑星」代表)さんに送ったりして、赤窄さんも眠らずに向き合ってくれて──泣いてるか喚いてるかのどっちかみたいな制作期間でした。今までは、本当に自分のことを人に伝えなさすぎて、一方的に突っぱねることが日常になってたから、最初は自分と向き合うのも辛くて。でも、受け取って対話してくれる人がいたから、自分の気持ちを吐露することが喜びになって、今は自分の気持ちを伝えるのがいちばんいいなと素直に思うようになりました。
──自分の過去に対しても、今までと違った気持ちを向けられるようになっていった感じがする。特にBiSHに関しては、180度くらい態度が変わりましたよね。
本当ですよね! 「何を……」って感じ(笑)。BiSH解散直後は今までよりも強くならなきゃみたいな焦りが強くて、自分にないものを全部身につけていかなきゃパワーアップできないって思っちゃってたんです。身近な人にも「そのままでいいんだよ」って言ってもらってたにもかかわらず、「変わらなきゃ」みたいな意識が強くて。そうなるとBiSHのことを考えるのが怖くなっちゃって、なかったことにしようとしていた瞬間もありました。でも、そうしてもただ自分が苦しくなっていくだけで、「あ、これは違った」と思ったんです。綺麗事のような言葉ですけど、今までもらってきたもの、やってきたことがあるからこそ今があるんだって思えるように変わりましたね。
──今作にはどの曲にも弱くて小さな自分の姿がしっかりと描かれているんですけど、そんな自分を否定するんじゃなく受け止めながら生きていくんだっていう意志を感じて、すごく頼もしいし感動的だなと思いました。
逆戻りして「私はこんな人間なんだ」で終わらなかったのは、今までやってきたこととか見てきたものをちゃんと自分のものにしたいっていう思いがあったからですし、現実を受け入れるようになったこともあるのかなって。人として年齢を重ねていく中でというのもありますけど、活動がPEDROだけになってからより緻密に──たとえばチケット販売数とか、今どれくらい聴かれているのかとかもわかるようになったんです。BiSHの時はスタッフの方々がやってくださって、メンバーはあまり関与してなかったんですけど、自分のバンドってなると現実を知ったうえでどう改善していくかを考えるようになって。普通に大人になった、ってことかもしれませんね。いつまでもガキガキしてられないなというか。
──ちゃんと現実と戦い始めた感じはしますよね。閉じこもってガードを固めて切り抜けるんじゃなくて、ちゃんとパンチを打たれにいってるというか。YouTubeで公開された「【原点回帰】解散から2年...みんなが僕をバカにすんだ」という動画でも「PEDROは失速した」という前提でいろいろな話がされていてすごいなと思って観ていたんですけど、それが言えるってことは、そこで戦えるという気持ちがあるからなんだろうなとも思います。
本当にそんな感じ。勇ましい気持ちです。
