この記事が読者の目に届く頃には、KISSが東京ドームで最後の日本公演を終えてからすでに1週間ほどが経過している。その様子を見届けたうえで本稿を書くことができないのは残念なかぎりだが、1977年の春を起点としながら重ねられてきたモンスターバンドの“ライブ・イン・ジャパン”の歴史が今回をもって完結に至ったことは間違いない。
実のところフェアウェルツアーを実施しておきながら継続の道を選んだ過去もあるだけに、『END OF THE ROAD』というタイトルを掲げながら進行中の本ツアーについても「どうせまだまだ続くんだろう?」と見ている人たちは少なくないはずだ。実際、このワールドツアー自体は2023年に入ってからも続いていくし、ツアー終了以降のさまざまなビジネス計画もあるようで、KISS自体が完全なる終焉を迎えるわけではない。
ただ、これが大事件であることに変わりはない。全世界の少年少女たちにとってのロックミュージックへの入口となり、奇想天外なロックンロールサーカスの楽しさを教え、1983年から1996年にかけては素顔で後輩世代のメタルバンドたちと渡り合い、オリジナルラインナップ再集結以降は結成当初からのコンセプトに立ち戻りながら、かつての子供たちばかりではなく新世代からの熱視線も集めてきた彼らは、まさしく全世代からの支持をほしいままにしてきた。
KISSを芸術的視点から評価することはなくても、彼らのライブを無邪気に楽しむことの喜びを知っている人は数えきれないほど存在するはずなのだ。
遅まきながらロックンロールの殿堂入りを果たしたのも2014年、結成40周年を超えた時のことだったし、権威ある音楽賞ともほぼ縁のない歴史を経てきた地獄の軍団。しかし彼らは評価ではなく共鳴を獲得し、ロックンロールを世界に根付かせてきた。この極東の小さな島国にさえも。そんなKISSの来日公演が、もう二度と観られないという現実。心にぽっかりと穴が開いたかのような喪失感に襲われているファンも少なくないことだろう。
しかし誰にもKISSの代わりを務められはしない。その穴を埋める手段もまた、彼らの構想の中には含まれているに違いない。この先は、デビューから満50年を迎える2024年2月に至るまでの動向に注目したいところだ。(増田勇一)
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