フジロック&サマーソニック、ソニックマニアを全日程完全レポート!


フジロック


2024年フジロックの一つのポイントは、オルタナ/インディ系のアーティストが新旧を問わず多数出演したことで、初日はデビューアルバム『ホウェア・ウィーヴ・ビーン〜』が素晴らしかったシカゴの新鋭、フリコに注目していた観客も多かったはず。個々ではカリッと鋭角な音を鳴らしながらも、集合としてはしなやかなうねりを生み出す演奏は、ポストパンクやノイズからエクスペリメンタル、そしてチェンバーまで横断する、豊かなサウンドパレットに相応しい硬軟自在ぶりだ。中盤のスローな展開では広大なグリーンステージを些か持て余すこともあったが、それはむしろ彼らの未開発な可能性を感じさせたもの。ニコの伸びやかな歌声にさらに翼を与えるような4パートコーラスも圧巻の“ホウェア・ウィーヴ・ビーン”では、見事にフィールドを制圧!

今年は昨年ほど暑くなく、木々の中を分け入る道のりは爽快に感じる。ホワイトステージで待っていたのは、“Lose Control”の大ヒットで今をときめくテディ・スウィムズ。騙し絵みたいなヒゲを生やした顔から身体まで、びっしりタトゥーで覆われたインパクト大の巨漢だが、歌い出すや否や、スウィートな高音に人情味を滲ませるその歌声に酔わずにはいられない。サインしたり、お喋りしたりと、本人もいたってチャーミング。ピアノ主体の歌物から、正確無比なリズムギターと速弾きリードギターを組み合わせたソウルファンク、さらにはハウスやガラージ風まで、エクレクティックなことをやりつつも、全ての曲がテディの歌声によって「分かりやすく」なっていく。現在の男性SSWブームの必勝パターンを垣間見たひと時だった。

グリーンに戻ると、オマー・アポロが登場。水色のハンパ丈セットアップにエナメルのパンプスという、高難易度のアイテムをサラッと着こなし、まさにポッププリンスの佇まい。軸のブレない美しいターンやパントマイムを取り入れたステージングは、彼のラテンのルーツとクィアな感性が融合した境地で生まれるものだ。前半はR&B歌い上げのシンプルな曲群だったが、オマーのファルセットが常人離れした高域に達するたびに観客からはどよめきが。そして徐々にビートが脈打ち始めた中盤、“Less of You”のエレポップで遂に会場も弾け、前方から後方へと“スパイト”のコーラスに合わせてウェイブが広がっていく。ラストの“Evergreen”も日暮れ時のメロウな空気にピッタリだった。

文=粉川しの

(以下、本誌記事へ続く)


サマーソニック

 台風一過の好天に恵まれたサマソニ東京1日目。個人的な体感としてはこれまでよりもさらに海外からの来場者が増え、また多様な音楽文化圏のファン層が織り成す開催に、サマソニの新たな可能性を感じてワクワクとさせられた。

弱冠20歳にして厚みのあるサウンドを楽々と突き抜けてしまう歌唱力を発揮したカナダのローレン・スペンサー・スミス。古き良きアメリカンポップスをコンテンポラリーに再解釈したスティーブン・サンチェス。同じくUS出身で見目麗しいドレス姿とともにじっくりと自身の表現の時間に巻き込んでみせたマディソン・ビアー。そしてアイスランドの気鋭ジャズシンガーであるレイヴェイは、マルチな楽器演奏をこなし、ドラマティックに盛り上がるポップな楽曲も素晴らしかった。

思い返せば9年前のサマソニ2015、今回と同じマウンテンステージに大抜擢という形で初来日のステージを踏んだナッシング・バット・シーヴスは、不敵な自信とそれに相応しい実力を兼ね備えた挑戦者という佇まいだったが、今の彼らは押しも押されぬUKバンドの代表として、風格と包容力を受け止めさせる存在だ。“ウェルカム・トゥ・ザ・DCC”の逃れ難いグルーヴから“ソーリー”のシンガロングに持ち込むライブ運びは、もはや横綱相撲である。

ブリーチャーズの異様な熱気が残るソニックステージに登場したベル・アンド・セバスチャンだが、丁寧かつマイペースなポップサウンドによって独自のヴァイブスを育み、新旧の楽曲で酔わせる。スチュアート・マードックが参加した朝ドラ『虎に翼』挿入歌“You are so amazing”をベルセバ・バージョンで披露する一幕や、歴代アルバムの美しいアートワークを背にした“THE BOY WITH THE ARAB STRAP”では人々をステージに招き入れ、ほっこりとした行進を繰り広げるなど、全編を親密なムードで包み込んでみせた。

文=小池宏和

(以下、本誌記事へ続く)


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