デヴィッド・ギルモアの神技と懐の深さに酔う。最新作『邂逅』ツアー現地レポート

デヴィッド・ギルモアの神技と懐の深さに酔う。最新作『邂逅』ツアー現地レポート
メンバー紹介の際、デヴィッド・ギルモアは「ここは第二の家みたいだ」と笑顔で語った。それもそのはず、最新作『邂逅』ツアーのロンドン:ロイヤル・アルバート・ホール6公演も5日目。DVD『覇響』が収録されたこの名門会場は彼のホームグラウンドと言える。そこでふと、開演前BGMに川のせせらぎや鳥のさえずりが流れていたのに思いが至った。ハウスボート兼スタジオ「アストリア号」をはじめ、万物流転な自然の中で創作に営む彼の家の雰囲気はこんな感じなのだろう。キャパ5000以上の円形劇場が、なぜか親密に思えてくる。そのアットホームな印象は新作からの“ビトウィーン・トゥー・ポインツ”で末娘ロマニーが披露した澄んだ歌声(小型ハープとコーラスでも活躍)、“シングス”で流れた幼い子供を抱きアコギを弾くギルモアを捉えたホームビデオ、キャンドルに囲まれジャジィにピアノを弾き語るルイーズ・マーシャルの“虚空のスキャット”で更に強まった。

もちろん“生命の息吹”〜“タイム”や“運命の鐘”にアンコール“コンフォータブリー・ナム”まで、フロイド往年の名曲の数々のスケールはレーザー照明や映像と相まって圧巻だった。液体銀を思わせるギルモアの叙情的なソロはひたすら美しく、ブルースやハードなサイケロックでガンガン押すかと思えばアコギやラップスティールの演奏ではたおやかなフォーク〜カントリー味を醸す、スクリーンに幾度も大写しされる神技はため息もの。

だが、ガイ・プラットら要員は残しつつ全体的に若返った今ツアーバンドは精鋭ぞろいで、ロックの神が開け放った深い懐の中で若い個性を自由に光らせていた。“天国への小舟”での息の合ったハーモニーを始め、このバンドは有機的にインタラクトするファミリーだと感じるショウだったし、アンコール前の“スッキャッタード”で座席から立ち上がり舞台前に詰めかけた観客も、その包容力に引き寄せられたようだった。同い年のドナルド・トランプは専横で横暴な旧式な家父長だが、国籍/世代/ジェンダーetcの区分を音楽で取っ払うギルモアは本当の意味での「慈父」。その健在ぶりに励まされる一夜だった。(坂本麻里子)


デヴィッド・ギルモアの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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