この男が動き出すと、やはり騒動が起こる。約6年ぶりのニューアルバム『メイクアップ・イズ・ア・ライ』をリリースしたモリッシーは、1月からツアーをキックオフ。
しかし、初っ端の北米で数公演をキャンセルしたのを皮切りに、途中まで順調に進んでいたヨーロッパも、3月のスペイン公演が「睡眠不足」を理由にキャンセルになるという、開催可否がロシアンルーレット状態の混乱を巻き起こす事態になった。
ちなみに睡眠不足の原因はホテル周りの「祭りの騒音、大音量のテクノ」だったというあたりも、モリッシーらしいとしか言いようがない。
一方、新作はまさにその「モリッシーらしさ」がアルバムを力強く牽引する、彼の正当な肖像と呼ぶべき快作に仕上がっている。お蔵入り騒動や権利問題でこれまた酷く揉め続けたキャピトルと決別し、90年代の黄金期を支えた古巣のサイアーと契約した本作は、モリッシーのミュージシャン、そして詩人としての本道に再びフォーカスした一作。
トリップホップやダンスポップをやったりと、新機軸を模索した前作『アイ・アム・ノット・ア・ドッグ・オン・ア・チェイン』の冒険的側面は残しつつも、ザ・スミスの時代から脈々と紡がれてきた鋭利なインディーギターとリリシズム、そして近年驚くほど調子を上げている艶やかな歌声を前面にフィーチャー。
キャンセルカルチャーの只中で、コントラバーシャルなアイコンとしての自分を持て余し気味だった2010年代を生き延び、毀誉褒貶を全部引き受けてある種、「モリッシー」として開き直った強かさがここにはあるのだ。
モリッシーは世界に対して、とことんネガティブでペシミスティックなスタンスで臨んできた表現者だ。しかし、「今がその時なのだ」と厳かに告げる“ユア・ライト・イッツ・タイム”や、オスカー・ワイルドの名言(「自分らしくあれ、他の誰かは既に誰かに取られているのだから」)に鼓舞されたと思しき“ザ・ナイト・ポップ・ドロップド”といった本作の曲を聴くと、彼の真髄は「とことんポジティブにネガティブしている」こと自体にあると気づくはずだ。(粉川しの)
モリッシーの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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