日経ライブレポート 「バンクス」

昨年のサマー・ソニックでのパフォーマンスが素晴らしく、今回の単独公演をとても楽しみにしていた。ドラムとキーボードとギターを弾くメンバー、その2人だけをバックに演奏するスタイルはサマー・ソニックと同じ。ただ今回はピアノの弾き語りなどもあり、より広い彼女の音楽世界を楽しむことができた。

洗練された打ち込みのビートに乗って、クールなメロディーのヴォーカルが歌われる彼女のスタイルは、今の先鋭的な女性アーティストの主流とも言えるものだ。クールビューティーなルックスもその音世界をよりスタイリッシュなものに見せている。気鋭の映像作家の撮ったビデオも、彼女の美しさをフェティッシュに描いたものが多い。

ただ彼女の歌詞は、スタイリッシュというよりは暗く重いものがメインだ。14歳の時に両親の離婚を体験し、厳しい思春期を過ごした。大学で精神分析を学び、自分と向きあいながら大人になった。そんな彼女を救ったのが音楽だった。歌うことによって自分の人生を歩くことができるようになったのだと思う。ヒリヒリとした恋愛をテーマにした歌詞は、実体験に基づくものが多いらしい。恋愛の楽しさというよりは、他者と理解し合うことの困難さが歌われている。しかしシンプルで分りやすい歌詞は、重く暗いものであってもたくさんの共感を得られるものだ。

弾き語りがとても良かった。スタイリッシュなサウンドがなくても、彼女の歌の肉体性とリアルが強く伝わってきた。逆に今のスタイルは彼女にとってたまたまのものであり、どんどん変化していく可能性が感じられ、それはそれで楽しみな予感を覚えた。

12日、リキッドルーム。
(2015年2月25日 日本経済新聞夕刊掲載)
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