日経ライブレポート「フジロックフェスティバル’16」

今年は3日間、雨が降らず涼しく快適な天候にフジロックは恵まれた。20周年なので天からのプレゼントなのかも知れない。

今年も充実したラインナップだった。ヘッドライナーのシガー・ロス、ベック、レッド・ホット・チリ・ペッパーズは、それぞれに素晴らしいステージを展開してくれた。シガー・ロスは見事なライティングと一体となったドラマチックなパフォーマンスを、レッド・ホット・チリ・ペッパーズは代表曲をしっかり聴かせてくれつつ最新作の世界観も提示する王道のステージを楽しませてくれた。

その中でも僕はベックの力強い演奏が強く印象に残った。2015年のグラミー賞を受賞した「モーニング・フェイズ」は長く苦しんだ病との闘いが反映された、とてもメランコリックで美しい作品であった。その作品を経てベックは、もう一度自分の原点を見つめ直し、音楽家としての方向性を検証したように僕は思う。そこで彼が出した結論は、デビュー当時に彼が示した多様な音楽スタイルを批評的に統合しながらモダンなポップ・ソングを作るという、彼が一番得意とするスタイルに新たに挑戦することだった。それは新曲やこの日のライヴに見事に結実していた。ベックの新しい挑戦の時代が始まる手応えのあるステージだった。

今年のフジで個人的に興味があったのはロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンといった新しいジャズの改革者たちの演奏だ。オーソドックスなジャズのスキルを持ちつつ、ヒップホップやロックの方法論も大胆に導入する若いアーティストたちだ。どちらも期待を超えるステージで素晴らしかった。

7月22~24日、新潟・苗場スキー場。

(2016年8月5日 日本経済新聞夕刊掲載)
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