日経ライブレポート「ブリトニー・スピアーズ」

1曲ごとにセットや演出が変化し、まるでジェットコースターに乗っているような90分のステージだった。それを観ながら、まるでブリトニー自身の人生のようだな、と思った。そんな事を考えたのは僕だけかもしれないが、彼女の表現と波乱の多い人生を重ね合わせて観る人は少なくないと思う。

16歳でデビューした彼女はいきなりの大成功を手に入れる。挑発的なスクール・ファッションのイメージは鮮烈だった。しかしそこからの彼女の人生はまさにジェットコースターだった。結婚、離婚をくり返す中での出産や裁判。ドラッグやアルコールへの依存と、その治療のための入院やリハビリ。いきなり自らバリカンで髪を丸刈りにしたりといった奇行や、いろいろなトラブルで警察ざたになった事もある。急激に体重が増え、別人かと思うような姿でファンを驚かせたりもした。

しかし彼女が凄いのは、普通なら何度もキャリアが終わってしまうドン底を体験しながら決して終わらないところだ。それどころか2008年以降、人気が復活し、しかもその人気が維持、拡大してきているのだ。まさにポップ・アイドルの奇跡といえる。彼女が力強く歌い踊るほど、過去の苦痛に満ちた時代が一種の伝説として浄化されていく構造は、新しいスターの在り方を示している。

ラスベガスで好評だったショーを、アリーナ・クラスのライヴへと展開させたステージは本当に隙のないエンターテイメントだった。鍛え上げられた肉体でほとんど90分踊り続ける彼女の姿は、ポップ・スターとしての物語性を強く感じさせるものだった。

3日、国立代々木競技場第一体育館。

(2017年6月27日 日本経済新聞夕刊掲載)
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