日経ライブレポート「デヴィッド・バーン」

ステージ上に十一人。ダンサーが三人、コーラスが三人、残りがバンドとデヴィッド・バーン。全員が白の衣装で統一。かなりの曲に決まった振り付けがあり、それをダンサーだけでなく全員で踊ったりする。予想もしない楽しいロック・エンターテインメントで、とても素晴らしいステージだった。一曲毎に大きな拍手が起き、なかなか鳴り止まないので次の曲が始められない程であった。

デヴィッド・バーンは一九八〇年代、ニューヨークを代表するロック・バンド、トーキング・ヘッズの中心メンバーとして活躍。日本でも高い評価と人気を誇っていた。パンク・ロック的なビート感と、アフリカン・ビートなどの黒人的なビート感を合体したスタイルは独特のもので、その後いろいろなアーティストに影響を与えた。僕は当時その方法に批判的で、その考えは今も変っていない。結局、トーキング・ヘッズは解散、バーン自身の音楽活動も地味なものになっていった。僕はその現状を方法論的な限界があったのだ、と理解したつもりになっていた。

しかし彼は一貫して自分の音楽的方向性は変えず、よりタフに、より洗練された形で追求していたのだ。トーキング・ヘッズ時代の代表曲も演奏されたが、懐メロ的な臭いはなく、現在の彼の音楽スタイルの中で見事に表現され、より現代的なものになっていた。

僕の批判は感単に言ってしまえば、目指す方向は正しいが、正規のメンバーが居るのに、ベースやドラムに腕のいい黒人アーティストを参加させ、ダブルにするのは違うのでは、というものだった。そんな事は十分承知しているし、僕はもっと先に来ているよ、とバーンに言われているような気持ちになるライヴだった。

2009年1月27日 渋谷AX
(2009年2月4日 日本経済新聞夕刊掲載)
渋谷陽一の「社長はつらいよ」の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする