そしてそれは曲が歌われる度に、より確かなものになっていった。その2時間はとても感動的で、かけがいのない時間だった。
一曲目に歌われたのが「あなた」であるのは、とても象徴的だ。
僕は彼女のインタビューで、歌詞に「あなた」という言葉が使われるようになったことの大きな意味について質問したことがある。それまでの「きみ」という二人称が「あなた」に変わった時、宇多田ヒカルと他者の関係、もっと大きく言えば世界との関係が変わったと僕は思っている。
そのことによって彼女の肉体と存在のリアルが、これまでとは違う形で歌の中に出現した。
今回のライブは、その変化がステージ上でも起きたことを体験できるライブだった。
ステージ上の彼女はとてもリアルで、変な表現かもしれないけれど切なかった。あの空間にいた誰もが、自分と宇多田ヒカルとの二人称の物語を感じることが出来たはずだ。
これから彼女はたくさんライブをやってくれるだろう、と何故か思った。きっと間違った予感ではないと思う。