King Gnuのソングライター・常田大希が追い求める音楽へのロマンの最新型とは?

King Gnuのソングライター・常田大希が追い求める音楽へのロマンの最新型とは?
2019年の上半期がもうすぐ終わろうとしているところだが、現在のバンドシーンを語るうえでKing Gnuの存在を欠かすことはできないだろう。

作詞作曲を担当しているのはメンバーの常田大希(G・Vo)であり、King Gnuの前身は常田が立ち上げたSrv.Vinciであるため、彼がこのバンドの首謀者だと言って差し支えないだろう。メンバーが現在の4人に固まり、現バンド名になり、コンセプトが定まっていき――というなかでバンドの方向性は次第に変わっていった。

そのコンセプトとは何か、というと、バンドというアートを完成させることであると思われる。King Gnuというバンド名の由来は、ロックバンドが老若男女からの視線を集めてスターダムへと上りつめていくストーリーを、ヌーの群れがどんどん拡大していく様子に見立てたことにあるという。


常田は、かつてオアシスがイギリスで大合唱を起こしたように、King Gnuの曲で大合唱を起こしたいのだ、そういう種類の熱狂が好きなのだという趣旨の発言をよくしている。一方、過去のインタビューによると、メンバーには「(アルバム)5枚目くらいで(バンドを)終わりにする」、「ダサくなる前に終わらせる」と言っているらしく、それはKing Gnu自体をいち作品として捉えているからこそできる発言である。King Gnuの演奏には野性的なグルーヴと緻密な計算が共存しているが、常田自身もまた、ロマンを追いかけるバンドマンとしての当事者的視点、それから、一歩引いたところからプロジェクトを俯瞰するプロデューサー的視点を兼ね備えているようだ。

King Gnu最大の武器は、そのアプローチの幅広さだ。例えば、常田はチェロ奏者でもあるため弦楽器の使い方が独創的なのだが、それが独創的に聞こえるのは、クラシックのやり方をロックに持ち込んでいるからである。このように彼の脳内ではジャンルの越境のようなものが盛んに行われており、また、それぞれルーツの異なる、確かな技術と感性を持ったメンバーに恵まれたことにより、バンドは高度なアレンジも実現可能な状態。ツインボーカルであることもバンドの選択肢を増やすことに繋がっている。

さらに、「“The hole”は、Mr.Childrenサザンオールスターズ宇多田ヒカルらを改めて研究したうえで作った曲である」というエピソードからも分かるように、常田は、J-POP的な歌の要素も意識的に取り入れているよう。「嫌われない声」と称される井口理(Vo・Key)のボーカルは、そのうえでかなり重要な存在となっている。


一般的に人は、ある程度流暢性が高く、しかし、わずかに得体の知れない部分もあるようなコンテンツに惹きつけられがちだという。常田はそういう大衆の特性に疑問を抱きつつ、同時にそれを逆手に取りながら、「ポピュラリティと先鋭性を如何に両立させるか」という部分にKing Gnuを通じて挑戦しているように見える。芸術を生業にする人たちにはよく「自分のやりたいものと世間が求めるものがイコールではない」という問題がつきまとうものだが、なかには、自分のやりたいものが大衆に受け入れられるよう調理することに長けた人、「これこそが新しいジャンルなのだ」と飲み込ませることのできる人もいて、常田はそのひとりなのだと思う。

今考えると、“Tokyo Rendez-Vous”、“Slumberland”などの楽曲およびMVを通じて「Tokyo Chaotic」というひとつのカテゴリーを打ち出したこともかなり象徴的な出来事だった。“Tokyo Rendez-Vous”を初めて聴いた時はこれまでにないタイプの曲だと思ったが、“Slumberland”を初めて聴いた時にはKing Gnuらしいなあと感じた、という人も少なくないのではないだろうか。


現在のKing Gnuはいわば、群れを成す仲間を集めている段階。この群れが大きくなった時、彼らがJ-POPを盾に取り、今以上にその独創性を発揮することができていたとしたら、事態はとっても面白いことになるだろうとついワクワクしてしまうのだ。引き続き、今後の展開に期待していたい。(蜂須賀ちなみ)

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