日経ライブレポート 「エイミー・マン」

客席には顔をよく知られた日本人ミュージシャンも多く、彼女の人気が同じミュージシャンの中でも高い事が分かる。繊細なメロディーと高い文学性を持った歌詞が魅力の女性シンガーである。夫がショーン・ペンの兄マイケル・ペンであり、ポール・トーマス・アンダーソンの傑作映画「マグノリア」が彼女の詞からインスパイアされたものである事は良く知られている。

前回の来日はバンド編成であったが、今回はバックに2人のミュージシャンが居るだけで、どちらかといえば小さなクラブで観たいような演奏スタイルであった。しかし、いろいろな楽器を持ち変えて達者な演奏を展開するバックの2人と、本人も楽器を持ち替えつつ楽しげに歌うリラックスした乗りは、わりと大きめなライヴ・ハウスを暖かいグルーヴで包んでいった。

彼女の作品を支える大きな柱は物語性である。前作「フォーゴトン・アーム」は、まさにアルバム全体がひとつのストーリーになった意欲作であったし、それ以外も常に彼女の作品には物語性がある。一曲一曲が優れたショート・ストーリーのようであり、聞き手はたくさんの物語をアルバムやライヴで楽しむ事ができる。

180cmを超える長身、長い金髪、女優としても十分通用するようなルックス、聞き手はそこからも歌の主人公としてのエイミー・マンに感情移入していく。それを本人は望んでいないかも知れないが。

8月25日 渋谷AX
(2009年9月9日 日本経済新聞夕刊掲載)
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