日経ライブレポート「Cocco」

15年間に渡るCoccoのキャリアを振り返りながら、新しい歴史のスタートを祝う、とても祝祭感に満ちたライヴだった。

これまで発表されたシングルを年代順に歌うという、とてもシンプルではあるが、逆にだからこそCoccoがどういうアーティストであるか強く伝わって来る構成が良かった。僕は何年も前、彼女の初武道館ライヴをこの評でとりあげた時、日本のポップ・ミュージックがここまで来た事の驚きと感動を書いた。

僕にとってCoccoはデビューから現在に至るまで、常に日本のポップ・ミュージックのトップランナーであり、最も重要なアーティストであり続けている。メロディー、歌詞、そしてそれを表現するパフォーマーとして、彼女は別格的な高みに存在し続けている。

しかし彼女を別格的な存在にまで高めた才能は、その巨大さゆえに彼女を引き裂いていく。深刻な拒食症による体力低下によって彼女は一時期アーティスト活動を休止せざるを得なくなった。活動再開後も長時間のライヴは出来ない状態が続いた。ようやく最近になって2時間近いフルサイズのステージが可能になり、今回のステージは久しぶりの本格的なツアーといえる。それがベスト・アルバムのタイミングに合わせた、こうしたキャリア全体を振り返るものになったのは感慨深い。

ステージから伝わって来る大きなエネルギーは、まさに彼女が新たなスタート点に立っている事を感じさせるものだ。この数年間の時間は彼女にとってとても苦しいものであったが、その時間との闘いから得たものが大きい事を感じさせる素晴らしいステージだった。

9月26日 ZEPP TOKYO
(2011年10月19日 日本経済新聞夕刊掲載)
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