日経ライブレポート「WEEZER」

開演時間になると、いきなりメンバーが客席に登場。公募で選ばれたファンと一緒に演奏する。かなり乱暴な企画だが、常にファンとの距離を近いものにしようとするウィーザーらしい演出である。三曲演奏後、そのままステージに歩いて行き、「バディー・ホリー」で本格的にスタート。初期のナンバーも多数演奏されて、ファンとしても楽しめたライヴだっただろう。

どこか懐かしさのあるポップなメロディー。ヴォーカルのリヴァース・クオモの、ちょっとオタクな臭いのする親しみ易いルックス。そんな事からウィーザーは誰からも愛される大衆的なロック・バンドのイメージもあるが、本質的にはとてもエキセントリックな性格を持ったバンドだ。確かにメロディーはポップなのだが、そのアプローチはマニアックで、どこか研究者的である。

そういえばリヴァースは、バンドが大成功している時期、いきなり大学に戻ってしっかり卒業したいと言い出し、バンドが休みに入ってしまった。戻った大学がハーバードというのも面白いが、その行動スタイルは相当にユニークである。甘いポップ・ロックの衣装を着ているが、その正体はシニカルかつシリアスなロック・バンドである。

ファンもその辺の事は十分に承知しつつも、ヒット曲が連発されるステージを思い切り楽しんでいた。正味一時間十分という短さ、本来リヴァースがヴォーカルを担当する曲を他のメンバーが歌ってしまう、そんな所に物足りなさを感じつつも、結局はウィーザーの奇妙なポップ・ワールドに包み込まれる快感に満足させられてしまうライヴだった。

2008年9月12日 ZEPP TOKYO
(2008年10月1日 日本経済新聞夕刊掲載)
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