日経ライブレポート「ヴァン・ヘイレン」

昨年予定されていた公演が、ギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレンの病気の為に今年に延期されたため、ファンにとって待望のライヴとなった。メンバー・チェンジ、エディのガン発病、長い活動休止。このバンドの歴史は波乱に満ちたものだった。それだけにオリジナルのヴォーカリストであるデイヴィッド・リー・ロスの復帰により、今回のツアーは一種のバンド・ヒストリーのハッピー・エンドを観ているような感慨深いものがある。

ヴァン・ヘイレンはハードロックを代表するバンドであるが、同時に異色のバンドでもある。ハードロックでありながら、暗さとセンチメンタリズムがないからだ。ハードロックの最大の武器である、そのふたつの要素を持たずにこれだけ歴史に残るバンドとしてのキャリアを重ねてきたのは驚異的なことと言える。

彼らの一番の武器は言うまでもなくエディのギターである。ロック界ナンバー・ワンとも言える彼の超絶なギター・テクニックは圧倒的だ。特にそのスピード感と独特なフレーズと音色は、一瞬聴いただけで彼だと分かってしまうくらい、独自なものだ。情緒的でないことも彼のギターの大きな特徴だ。感情を込めた泣きのギターを弾くということはない。まるでスポーツのように彼はギターを弾いてみせる。その痛快さに僕達は熱狂するのだ。

ヴォーカルのデイヴの明るさは、エディの乾いたスピード感に歴代のヴォーカリストの中で一番相性がいい。この2人の組み合わせこそが、このバンドの魅力を最大化させる、それを改めて確認させるライヴだった。

6月21日、東京ドーム
(2013年7月1日 日本経済新聞夕刊掲載)
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