チャットモンチーの解散について思ったことすべて

 チャットモンチーがまだデビューする前の話。
 その頃はまだ彼女たちは主に徳島周辺で活動していて、たまに関西に車でライブをしに行く、というアマチュア・バンドだった。
練習は福岡晃子と高橋久美子が通っていた鳴門教育大学の軽音部の部室で、音源は手売りの自主盤だった。
 
2005年、初めてその自主制作盤『チャットモンチーになりたい』を聴いて、僕は衝撃を受けてしまった。
若々しさと懐かしさ、純粋性と情念がクルクルと入れ替わりながらオルタナティブに展開していく独自な楽曲。
つたないからこそ心を揺さぶってやまない3人の演奏。
そして橋本絵莉子の子供のようでいて毅然とした声。
これは数年に一度出るかどうかの破格のバンドだと思った。
 
こういう場合、通常なら総編集長権限を最大限に活用して本誌ジャパンで大々的に取り上げてプッシュするわけなのだが、2005年のその頃は僕は一時ジャパンを離れて洋楽誌ロッキング・オンの編集長をやっていたので、そういうわけにもいかなかった。
なのでその当時のジャパン編集長の古河普に頼んで編集会議に出させてもらい、そこでチャットモンチーがいかに凄いバンドであるかを説明させてもらってページを確保して、そこで彼女たちのことを紹介する、という手順を踏んだ。
そしてそこから4ヶ月連続で、デビュー前のアマチュアバンドとしては異例中の異例の形で、チャットモンチーの記事をジャパンに掲載したのであった。
それから再びジャパン総編集長に着任した僕は、セカンドアルバム『生命力』の時に初めてチャットモンチーを表紙にした。
 
それから現在まで、クミコンが在籍していたトリオ時代に2回、えりことあっこの2人になってから2回の計4回、チャットモンチーはジャパンの表紙を飾っている。
まだ30代前半の世代のバンドとしては非常に多い。
バンプ、ACIDMAN、アジカン、エルレの次の世代の主役級のロック・バンドとして僕はチャットモンチーを捉えていた。
音楽やバンドというもの対する自由でオルタナティブなスタンスも、アレンジや歌詞のポストモダンなセンスも、それまでの時代にはない新しいものだった。
そして、それをポップに提示することによってシーン全体を巻き込んでいく力も彼女たちは持っていた。
その当時、世間ではチャットモンチーは「ガールズバンド」として語られることが多かったが、ジャパンではむしろ同世代のベボベ、キューミリ、サカナクションらとともに、シーンを先へと引っ張っていく力を持つ先鋭的なロック・バンドとして彼女たちを取り上げてきた。
読者もそう捉えていたと思う。
 
3人から2人になり、そしてチャットモンチーはついに解散する。
その理由や経緯は今号のインタビューですべて語られている。

「もう全部やりきった」と2人は口を揃えて言った。
「まだデビューして14年のバンドが何を言ってるんだよ」といつもの僕なら反論していたはずだ。
でもそう思わなかった。
確かに、全部やりきったよな、と思った。
 
最初はトリオのシンプルなロック・バンドだった。
ドラムのクミコンが抜けたらあっことえりこがドラムを叩いてこれまでどこにもなかった最新型ポップを鳴らすデュオとして生まれ変わった。
その次は男子・女子のサポートメンバーをそれぞれ配置して「乙女団」「男陣」の2つのバンド編成を組んでパワフルなライブを展開した。
そして解散を決めてから制作された最後のアルバム『誕生』は、全編あっこのプログラミングを主体とする2人だけのサウンドになった。
うん、確かに、もう全部やりきったのかもしれない。
いや、そもそもチャットモンチーの音楽の濃さや、活動の純度の高さや、起こした奇跡の数々を思えば、14年という時間は十分だったのかもしれない。
えりこがインタビューで言っているとおり、チャットモンチーは最後のライブの日をもってちゃんと「真空パック」されるのだと思う。
そう考えると、妙に安心する。
(山崎洋一郎)


ロッキング・オン・ジャパン最新号、コラム『激刊!山崎』より



そして現在発売中のロッキング・オン・ジャパンではチャットモンチーのラストインタビューを掲載しています。
以下のアーティストからのチャットへのコメントも掲載しています。
ぜひご覧ください。

あ〜ちゃん(Perfume)
蒼山幸子(ねごと)
牛丸ありさ(yonige)
江口雄也(BLUE ENCOUNT)
奥田民生
かしゆか(Perfume)
川谷絵音
岸田繁
草野マサムネ(スピッツ)
柴田隆浩(忘れらんねえよ)
清水依与吏(back number)
菅原 卓郎(9mm Parabellum Bullet)
田邊駿一(BLUE ENCOUNT)
谷口鮪(KANA-BOON)
CHAI
寺中友将(KEYTALK)
のっち(Perfume)
林萌々子(Hump Back)
ホリエアツシ(ストレイテナー)
牧 達弥(go!go!vanillas)
宮本浩次(エレファントカシマシ)
柳沢亮太(SUPER BEAVER)
山内総一郎(フジファブリック)
RINA(SCANDAL) 
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