ただ昔の曲をやって振り返りましょう、というのでは全然なくて、その時々の当時のツアーと同じ衣装や演出を次々に繰り出しながらリアルに過去を追体験するというとんでもないコンセプト。
その演出力、再現性、それを引っ張っていくユーミンの肉体と精神の強さ、すべてが圧倒的と言っていいものだった。
なにしろユーミンの場合、「演出」と言ってもそんじょそこらの「演出」とはわけが違って、これまでロシア国立サーカス団やシンクロナイズド・スイミングの金メダリストが登場したり、シルク・ドゥ・ソレイユのデザイナーがセットデザインを手がけたり、そういうスケール感なわけで。
今回は、過去のそうした数々の演出や衣装のテーマが曲ごとに次々と現れて、名曲の数々とともにどんどん展開していく、まさに「タイムマシーン・ツアー」というタイトル通りの計算しつくされた見事なエンタテインメント・ショーだった。
でもそこから5日経って脳裏に強く残っているのはユーミンの肉体性だ。
ステージに立っているだけで凄まじい存在感を放ち、腕を上げたりステップを踏むたびに武道館の空間を揺さぶり、笑顔一つで観客を高揚させ、そしてその歌声が場を圧倒し、心をつかむ。
その圧倒的な存在感と説得力が結局全てだったと思う。(山崎洋一郎)