東日本大震災から10年目の今日

10年前に書いた2011年3月22日のブログの文章を、再掲載させてもらいます。
このときの気持ちは今も変わらず、その気持ちで今のコロナの状況の中で音楽と向き合っています。






今回の震災で被災された方、遺族の方、何らかの困難を背負った方、復興や支援に尽力されている方、全ての方にお見舞いを申し上げます。少しでも早く、少しでも多くの方が平常の生活を取り戻して、音楽を心から楽しめる時が来ることを願ってやみません。
震災があった直後から、会社ロッキング・オンとして何をするべきか、次にJAPAN総編集長として何をするべきか、そして僕個人として何をするべきかを一気に考えてすぐに行動しなければならなかった。会社として現時点で何を行なったかはウェブサイト「RO69」の「東北地方太平洋沖地震の被害に対する支援について」という項目で報告している。そして音楽専門誌JAPANとしては、まずはこの号を全力で作り、なるべく発売日に近い日付で発売し、届く人の元へはできる限り届け、今は届かなくてもいつかこの号を手にとってもらえた時に少しでも力と慰めになるように、編集部としてやるべきことをとにかく全身全霊でやり遂げる、ということに徹した。数々のリリース物が延期され、ライブの多くが中止/延期になり、関係各社の社員の多くが自宅待機となり、印刷会社の紙の調達が困難になり、編集部員の不安や疲労も溜まっていく中で、とにかく雑誌を作って届けることに一丸となって向き合った。やむを得ない事情がない限り、発売中止・延期するということは考えなかった。この本が書店に届き、さまざまな状況の中でみなさんの手に届いて読んでもらえることで少しでも何かプラスを生むことができる、と信じた。気休めの暇つぶしでもいい、慰めでもいい、笑いや怒りの感情でもいい。ミュージシャンの言葉を読んで力付けられてくれたら、写真を見て愛おしい気持ちになってくれたら、いつか無事に発売されるアルバムやシングルを楽しみにしてもらえたら、ライブに再び行く日を心待ちにしてもらえたら、フェスでまたみんなが会える日を一緒に願ってもらえたら、そう祈りながら、薄暗い編集部でひたすら作業に集中した。
大げさに思われるかもしれないが、希望に繋がる、と思ってこの号を作った。正直に言えばそれは誰かのための希望ではなく、作っている自分たちの希望だった。この号を何とか作り上げて、発売される日がやってきて、みんなに読んでもらえる日がやってくる、それが我々の希望そのものだった。

そして、こんな時だが、僕はやはり音楽について書きたい。今、ライブもやれない、新譜も発売されない、いやそれどころか電力も不足して、しかも被災者の状況はそれどころではないという日々の中で、音楽は力を失っている。だが、すぐに音楽はその力を取り戻すはずだ。なぜなら、この「理不尽な不幸」を最終的に癒し、回復するのは「理不尽な愛情」だからだ。それは音楽である。もちろん今回の災害には我々が厳しく危機管理の目でチェックしていたら避けられたかもしれない「理由のある人災」の要素も大きい。それに関してはその理由や原因を問いただしていかなければならない。だが、地震、津波の直接的な被害による「理由もなく、無差別に襲った不幸」に関して、それを最終的に癒すものは、「理由もなく、無差別に包み込む愛情」しかないと僕は思う。そして、音楽がそれなんだと思う。当然、必要な人に必要な物資を届けることや、放射能の危険から家族を守ることや、いろいろな立場の人達がそれぞれの理由や必要に迫られた行動をとることが今は必要だ。すぐに的確な行動をとることが今は何よりも重要な時期だ。だが、何の理由もなく理不尽に災害に襲われた人々にとって、これから先長い間必要になるのは、その「理不尽な不幸」から受けた傷を癒す「理不尽な愛情」だと思う。そして音楽は、「理不尽な愛情」、つまり理由なき愛を届けるのにもっともふさわしいものだ。音楽は、届く相手が誰であろうと、どこにいようと、その人に伝えるための理由があろうとなかろうと、状況のまったく違う海外の音楽であろうと何十年前の音楽であろうと、その音楽を作った人の愛、気持ちを届けることができる。そして、届いた人の気持ちと通じ合うことができる。届けようとした人と、届いた人を、一つの同じ気持ちで包み込むことができる。理由などなく、全く理不尽に。音楽にはそれができる。

震災が起きて今日で一週間目だ。今は希望を持ち、しっかりと生き延び、苦しんでいる人の助けになることを考えて行動することが何よりも必要だ。でも少しずつ、これから音楽を鳴らそう。理由もなく無差別に襲った不幸を、音楽という理由のない無差別の愛で癒しながら力を取り戻そう。取り戻したらまたそこから、生きる理由や世界の意味を探しに行けばいい。その時にもまた、音楽が共にある。
音楽の力を取り戻そう。(山崎洋一郎)
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