2018年にデビュー作をリリースしたUK新星の必聴盤を振り返り。そして2019年の注目株は彼らだ!

年末にこの1年間にゲットしたアルバムやEP、各種プレイリストを整理しながら思ったのは、2018年のUKシーン、実はヒップホップやダンス・ミュージック以外にもかなり聴きどころがあった年では?ということ。

とりわけThe 1975の『ネット上の人間関係についての簡単な調査』という突き抜けた傑作が11月にリリースされたこともあって、年末にかけてぐっとシーンが盛り上がった感もある。

ここではそんな2018年にエポックメイキングなデビュー・アルバムをリリースしたUK新人を改めてご紹介。同時にこの2019年に絶対出会っておくべきニューカマーをピックアップしてみました。


シェイムが証明したUKパンク新世代のポテンシャル


2018年のUK新人の中でもとりわけ鮮烈なアルバム・デビューを果たしたのがシェイムの『ソングス・オブ・プレイズ』だ。このギター・ミュージック、バンド・サウンド冬の時代に、それでもなおそこが情熱と怒りの在処として有効であることを証明したこの傑作の意義は計り知れない。

アルバムの段階ではフォールやジョイ・ディヴィジョン的なポスト・パンク、アート・ロックの趣もあった彼らだが、ポスト●●、●●リバイバルという言い訳を全部脱ぎ捨て、アングリー・ヤング・ラッズの丸裸の気迫で勝負したライブも最高だった。

アイドルズのセカンド・アルバム『ジョイ・アズ・アン・アクト・オブ・レジスタンス。』と合わせて、UKパンクの再興がシリアスに(そしてユーモアを忘れず)果たされた2018年だったのだ。



→2019年、シェイムの次はこれを聴け!
シェイムやアイドルズらUKパンク勢のブレイクは決して突然変異のそれではなく、スリーフォード・モッズやファット・ホワイト・ファミリーらがアンダーグラウンドで踏ん張ってきた直近10年の系譜に連なるもので、その火はこれからも消えることはない。

今年デビュー・アルバムが期待される新人の中でもFontaines D.C.、The Murder Capitalらは次世代を担う最右翼で、彼らは共にダブリン出身。今年はアイリッシュ・パンクが再熱?



ポップに果敢に攻めたペール・ウェーヴス


プリミティヴな表現とウェルメイドな表現、無意識と自覚、そのふたつが絶妙に混じり合い、インディ・シーンとポップ・シーンを橋渡しする最高のデビュー・アルバムをリリースしたのがペール・ウェーヴスだ。

彼女たちの『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』は何十年にもわたってウジウジメソメソと受け継がれてきたUKインディの屈折した思春期サウンドを、広く世間一般に訴求するメロディに乗せて解放してした戦略的快作で、ザ・キュアーを心の大事な部分で抱きしめながらマドンナに憧れてステップを踏むゴスっ子ヘザーのアイコニックな存在も突出していた。



→2019年、ペール・ウェーヴスの次はこれを聴け!
ペール・ウェーヴス、The 1975、ウルフ・アリスらを輩出し、今最も勢いのあるUKレーベルのひとつとなったのがDirty Hit。けっして多産ではないが、その分狙いすましたフックアップ力に定評があるレーベルで、そんなDirty Hitが現在プッシュ中の新星がKing Nun。当初はグランジ・リバイバル色が強かった彼らだが、デビューEP『Family Portrait』はもっと多彩、ノイズの裏のセンシティブで甘いメロディに注目。



UKインディ・ギターの主役を担ったガールズ・パワー


2018年はかつてのウルフ・アリスやロイヤルブラッドのような特大のブレイクスルーこそなかったものの、UKインディ、オルタナティヴ・サウンドがここ数年続いた悲観論から一転、もっとニュートラルに「アリ」な選択肢として再定義された年もあった。

例えばゴート・ガールのデビュー・アルバム『ゴート・ガール』は、ヒップホップ、ジャズ、アンダーグラウンド・ディスコ等々のメルティング・ポットと化したサウス・ロンドンから登場し、その多様性から当たり前に影響を受けつつも、それでもアウトプットはギター・バンドであることに何の屈託もない一作。

その一周回った素直さが、彼女たちの高テンションのアート・パンクに、ニヒルなアンビエントやサイケデリックに、本来なら内向きの高踏派で終わるそれに奇妙な楽観性を与えているのだ。ドリーム・ワイフの『ドリーム・ワイフ』のストレート・エッジなガレージ・ポップも最高でした。



→2019年、ゴート・ガールの次はこれを聴け!
屈託のなさ、一周回った素直さという意味では今年注目のUKインディ・ギター勢のそれはさらに際立っている。ガールズ・ロック新星のwhenyoungやLuciaはキッチュだったりグリッターだったりする「ポップ」によりフォーカスしたサウンドで、結果として長らく禁じ手とされてきたブリットポップのリバイバルがあっさり実現されているのが新鮮。


これはガールズ・バンドに限った例ではなく、例えばパルプやブラーのアイロニカルなポップ・センス、サーカスティックな英国性をこれでもかと体現したSports Teamや、ヴァンパイア・ウィークエンドばりのアフロ・ポップやボサノヴァを纏ったジャングリー・ポップで話題のCassiaなど、2019年のUKインディはポップ、カラフルがキーワードになりそう。



トム・ミッシュ大ブレイク、UK SSWの新たな道筋が示された2018年


前述のシェイムとゴート・ガールに共通するのは、この2組が共にサウス・ロンドンを拠点とするバンドであったこと。2018年のUKシーンを語る上で外せないトピックが震源地としてのサウス・ロンドンだったわけだが、トム・ミッシュはまさに彼の地ののど真ん中でブレイクスルーを果たした新星だった。

サウス・ロンドンの面白さは単なるトレンドの押し売り場ではなく、特定のトレンドや傾向では括れないごった煮の実験場であったことで、ミッシュのデビュー・アルバム『ジオグラフィー』はジャズであり、ラウンジであり、ソウルであり、ギター・ポップであり、AORであり、もちろんヒップホップであるというまさにその実験場の縮図でありながら、最終的にイージー・リスニングとしての問答無用の心地良さを生み出してしまった身も蓋もなさも最高だった。エド・シーランという怪物の裏で、ジョージ・エズラジェイムス・ベイらとも一線を画すUKシンガー・ソングライターの新たな道筋が示された2018年だったとも言える。



→2019年、トム・ミッシュの次はこれを聴け!
UK SSWの有望株もまだまだいます。例えばレックス・オレンジ・カウンティとYellow Days、さらにはデクラン・マッケンナを繋ぐ驚異の15歳(!)、Alfie Templeman。未完成なローファイ節ながらもサイケにAOR、ギタポにジャズをスムースに繋いでいくこの少年の万華鏡ポップのセンスは驚異的。


また、サウス・ロンドンの新たな星Leymaはポスト・キング・クルールと呼ぶに相応しい伏兵。こちらも要注目のUKヒップホップ新人Osquelloとコラボしたシングル“Bumpintheroad”は、まさにロイル・カーナーとトム・ミッシュのコラボを彷彿させるインスタント・クラシック!


(粉川しの)
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