新作『ラヴァー』への期待をかきたてるテイラー・スウィフトの“ME!”と“You Need To Calm Down”。本来の作風が復活、さらに前作の大胆なサウンドも活かされ、とてつもない快作の予感!!

新作『ラヴァー』への期待をかきたてるテイラー・スウィフトの“ME!”と“You Need To Calm Down”。本来の作風が復活、さらに前作の大胆なサウンドも活かされ、とてつもない快作の予感!!

8月23日にリリースが予定されているテイラー・スウィフト待望の新作『ラヴァー』。これまで先行シングルの“ME!”と“You Need To Calm Down”の2曲がリリースされ、それぞれにビデオも公開されてきているが、本来のテイラーの作風が打ち出されているのと同時に、前作『レピュテーション』の呪縛からも完全に解放されたことを示唆していて、否応なしに新作への期待をかきたてる内容となっている。

本来の作風というのは、もちろん『レッド』、『1989』以降のポップ路線のことだが、実は『レピュテーション』では自分のサウンドへのヒップホップとR&Bの導入についても大胆に成功させることができていたので、今度の『ラヴァー』のサウンドやプロダクションについては、かなり懐が深くなっていることも期待できるはずだ。

そもそも前作『レピュテーション』とはどういう作品だったのかというと、SNSで自身が蛇女呼ばわりされて大炎上し、その後自身へのバッシングが続いた時の心境を露わにしたものだ。しかし、それまでのテイラーの作品世界は恋人や周囲との関係を女子として綴っていくもので、自身の視点の成長とともにテイラーはカントリー・ポップからメインストリーム・ポップへとサウンドを転化させてきた。
それは作品の中で描かれる世界観も拡大させる必要を感じたからで、早い話、テイラーが大人になればそれだけ感情の機微も複雑になり、メインストリーム・ポップという大きなパレットが必要になったということなのだ。


ただ、『レピュテーション』はその延長で作られた作品ではなく、バッシングにあったある時期の自身の感情に特化した作品だったからこそ、昨年のレピュテーション・スタジアム・ツアーではこのアルバムからの楽曲が15曲も披露されるという、ライブとしてはかなり類を見ない珍しい構成になっていた。つまり、このアルバムに特化された感情を吐き出していくためのツアーなのであって、テイラーのこれまでの作品世界とはかけ離れた飛距離をよく表すものになっていたのだ。

というわけで、“ME!”のビデオの冒頭ではピンクと白の縞模様の蛇が登場し、それが噛みついてきた瞬間に彩りきれいな蝶の群れへと変身するが、これはまさに『レピュテーション』のモードから解放されたことのメッセージなのだ。楽曲はパニック・アット・ザ・ディスコのブレンドン・ユーリーとの共作になるが、これはもう王道のテイラー・ポップともいえる曲で、ファンなら誰もが期待してきたテイラーのポップ・ソングが帰還したことを告げる曲となっているし、ビデオの演出もそれにふさわしいエンタテイメントに徹したものになっている。
そして楽曲は、想いをかけている人に自分を売り込む内容で、恋心と同時に自己肯定感を思いっきり打ち出したもので、あからさまに『レピュテーション』のモードをかなぐり捨てた潔さがどこまでも爽快だ。


その一方で"You Need To Calm Down"は新機軸ともいえるもので、シンセ・ベースのグルーヴのリフを軸にパーカッシヴなボーカルを聴かせつつ、おそろしくキャッチーなコーラスへ雪崩れ込む展開はまさに前作『レピュテーション』で獲得した強味にほかならない。
前作では自身が抱えた攻撃的な心情を解放していくのにR&Bやヒップホップを大胆にサウンドに導入していったわけだが、もう自在にこのサウンドを自分のポップ・ソングにアレンジしてみせるテイラーが既にいるのだ。さすがというしかない。


曲の内容は自分を攻撃する相手に対して「ちょっと落ち着きなさいよ」と諭すもので、これはもちろん、バッシングを経てどんな状況についても突き放して構えることができるようになった今の心境を歌ったものだ。
このテーマをもとに、ビデオではLGBTへの理解を求めるテーマがおもしろおかしく描かれ尽くされていて、こうしたメッセージを描き込むだけの心の余裕を感じさせるものになっているのが頼もしい。

ただ、テイラーの背中に描かれたタトゥーは“ME!”の冒頭に登場した蝶の群れへと変身する蛇のもので、こうした生真面目なところがまたどこまでもテイラーらしい。
そして、最後にはテイラーと対立を続けていたとネットでさんざん取り沙汰されたケイティ・ペリーが登場し、ふたりは切っても切れない仲なのだということをコミカルに描写してみせている。

もはや完全に『レピュテーション』というステージを乗り越えたことを実感させてくれているだけに、テイラーの真骨頂である恋心や関係についての楽曲がどういうものになっているのか、今からもうアルバムがとても楽しみだ。(高見展)
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