【フジロック総復習・3日目】ザ・キュアー、ジェイソン・ムラーズ、ヴィンス・ステイプルズ、ステラ・ドネリーらを観た!


「FUJI ROCK FESTIVAL '19」の最終日は、前日の激しい豪雨の爪痕がまだ生々しく残るぬかるみのフィールドでスタートした。グリーン・ステージやオアシス・エリアのあちらこちらに出現した沼地(ホワイト・ステージは砂利だけあって比較的水捌けが早かった)に足をズブズブと取られながらも、それでもこの日はフィナーレに相応しい感動的なステージが続く一日となった。

この日のヘッドライナーは通算3度目にして6年ぶりの出演となったザ・キュアーだ。その真裏ではジェイムス・ブレイクやクルアンビンがプレイしていて、そのバッティング具合が贅沢にして悩ましい状態を生み出していたが、それでもこの日、キュアーのステージに張り付いていた私やあなたには1ミリの後悔もなかったはず。10分押しで始まり、5分巻きで終わった彼らのステージは正味2時間で、2013年のステージが3時間超えの長大セットだったことを思えば、いかに今回の彼らのパフォーマンスが濃厚でエッセンシャルな内容になっていたかが窺い知れるはず。そしてエッセンシャルなセットだったからこそ、途中から観たとしても、アンコールだけ観たとしても、今年の苗場のオーディエンスは常にキュアーの真髄を100%の密度で堪能することができたのだ。


ただし、彼らは単純にヒット曲を並び立ててコンパクトなステージにしたわけではない。『ディスインテグレーション』30周年のアニバーサリー・イヤーのパフォーマンスだけあって、“Last Dance”から“Burn”へ、“Play For Today”から“A Forest”へと、ダークで重厚なナンバーをさらに深く奈落へと向かって抉っていくようなハードなプレイも続出で、ポップでナイーヴな歌メロが合唱となった“Picture Of You”や“In Between Days”とのコントラストも恐ろしく鮮やかだ。そしてこのコントラストこそがキュアーをキュアーたらしめるものだということが、全編にわたって証明されていたし、だからこそ“Friday I’m in Love”、“Close To Me”、そして“Boys Don’t Cry”とエバーグリーン・チューンの連打へと問答無用でなだれ込んだアンコールのカタルシスも凄かったのだ。

コンディション不良で来日がかなわなかったサイモン・ギャラップのピンチヒッターとしてサイモンの息子エデンがステージに立ち、多少固くなっている彼をロバート・スミスをはじめとするメンバー全員でフォローし、高め合っていく一体感も素晴らしかった。それにしてもロバート・スミスにあんなにも力が漲り、嬉しそうな笑顔を見せながらファンと交感していったステージは少なくとも苗場では初だったし、この日のステージがキュアーの来日史に刻まれる傑作となったことは、ロバートが「See you again」と未来を約束したエンディングにも明らかだった。


ちなみにそんなザ・キュアーの真裏のジェイムス・ブレイクは直前に急遽ライブ配信が中止となってしまったが、ブレイクは自身のインスタグラムのストーリーでそれが自身の喉のコンディションや照明機材のトラブルによるやむ終えない決断だったことを明かし、謝罪をしていた。でも、そんなハプニングをものともしない素晴らしいステージになったことは、彼の貴重なライブを目撃できた人たちのライブ後の陶然とした証言の数々が物語っている。

そんなブレイクをトリに頂いたこの日のホワイト・ステージは、イタリアン・パンクの重鎮バンダ・バソッティや、キューバからやって来た祝祭集団インタラクティーヴォ、韓国のロック・シーンのリアルを伝えるヒョゴ、日本の枠を超えた活躍が目覚ましいKOHHと実にワールドワイドなラインナップで、そんな中でヴィンス・ステイプルズのクールでシリアスなステージングは異彩を放っていた。一方のレッド・マーキーではオルタナ・ギターを軽やかにアップデートしていくステラ・ドネリーは素晴らしくフレッシュで魅力的だったし、フォニー・ピープルからチョンへの流れは、バカテク集団がその才能を縦横無尽に走らせて生み出した、フジロックらしいチルでハッピーなヴァイブが最高だった。


また、柔らかな日差しが差し込み始めた雨上がりのグリーン・ステージでは、さらに気分をアゲてくれるハイエイタス・カイヨーテのグルーヴが空高く舞い上がり、そしてフジロックで観るこの人のステージが楽しくないわけがないジェイソン・ムラーズは、「セサミ・ストリート」みたいにカラフルなバンドを引き連れて(腹話術人形も登場)、コミカルでソウルフルなまさに期待通りのフェスティバル・セットを繰り広げてくれた。「終わりよければすべて良し」と言ったら語弊があるかもしれないけれど、体力的にも気力的にも極めてタフな瞬間が多々あったことは否めない今年のフジロックが、それでも最高!の体験として私たちの記憶に刻まれると確信できた、そんな幸福な最終日だったのだ。(粉川しの)


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