堂々たる履歴書

トレイシー・ソーン『ソロ:ソングス・アンド・コラボレイションズ 1982-2015』
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ALBUM
トレイシー・ソーン ソロ:ソングス・アンド・コラボレイションズ 1982-2015
ネオアコや80年代以降のUKポップ史を語る上で欠かせない、一度聴いたら忘れないヴォイスの持ち主であるトレイシー・ソーン。エヴリシング・バット・ザ・ガール活動停止後しばし育児に専念していたものの、00年代後半にソロ活動を再開――近年では高い評価を得た自伝他の執筆活動も盛んだが、本作はそんな彼女のマリン・ガールズ時代から33年にわたる多彩な「ソロ仕事」を俯瞰するアンソロジー作になる。

2枚組の内容はDisc 1:アコースティック/AOR寄りの「王道」な作風、Disc 2:“プロテクション”を契機とするクラブ志向とに大別されており、単発シングルやゲスト参加曲、リミックスといった分散しがちな楽曲をまとめて聴けるのは嬉しい。声量や肺に恵まれた人ではないので、こうしてフラットに並べて聴くと、いわゆるエモい歌唱が求められる楽曲での弱さは感じるが、弱点を逆手にとってポップにおける彼女なりの「微熱」なニッチを掘り下げていったのは見事だし、自身の長所を知っているだけにモノクローム・セットからザ・XX等、カヴァーの選曲センスは抜群だ。様々な切り口で聴ける内容だが、ひとりの女性の変遷の歴史として誇りと共に聴いている。(坂本麻里子)
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