80年代後半に登場、一躍ビッグ・アーティストの階段を駆け上った黒人女性シンガー・ソングライター。フォーキーなデビュー曲の“ファスト・カー”のインパクトは、すごかった。ポップ・ミュージックやロックの世界で自動車というのは、女性の肉体もしくは男性の経済状況の隠喩として使われることが多い。しかし、この曲は違う――「速い車」が、脱出の夢の象徴として使われている。当時それが新鮮で、最高だった。その時から現在に至るまで、一本筋のとおった信念を柔らかいメタファーに包んで表現してきた、彼女の8枚のオリジナル・アルバムから17曲、初盤化1曲を収録した究極のベスト。
今の状況であれば“トーキン・バウト・ア・レヴォリューション”、銃声の擬音を模した“バン・バン・バン”、00年代の“チェンジ”などが、とりわけぐっとくる。初盤曲は、アメリカの名物トーク・ショー、『レイト・ショー・ウィズ・デヴィッド・レターマン』で披露した、“スタンド・バイ・ミー”のカヴァー。何十年も続いたこの番組は、15年についに最終回を迎えてしまった。しかし終わりは、なにかの始まりなんだ。この感動的な曲たちを聴きつつ、そう思った。(伊藤英嗣)