万物の理に基づいた報復劇

ビヨンセ『レモネード』
発売中
ALBUM
ビヨンセ レモネード
4月に突如デジタル・リリースされた新作であり、アルバムのヴィデオがコンパイルされていた点も前作『ビヨンセ』と同様だが、今回のヴィデオ“レモネード・フィルム”では、全編のストーリーを繋ぎ合わせるようにモノローグ風のスポークン・ワードが挿入されている。前回以上に作品として重要なヴィデオなので、きっちりとDVD化されて良かった。夫ジェイ・Zの不貞に怒りを燃やし、許すまでの過程を物語として描いている。こう書くとプライヴェートなテーマのようだが、家族を引き合いにした歴史的な性差問題として、凄まじくポップな問題提起と報復を繰り広げるのだ。ジェイ・Zをこんなふうに打ちのめすことが出来るアーティストは他にいない、という点で圧巻だし、音像も映像もフェミニンかつエレガントなタッチで貫かれ、男性性によるシーンの支配構造とも真っ向から闘っている。旧い価値観の美を新しい価値観の美が駆逐する、あまりにも正しい闘争のアート。またコラボレーションでは、物語の重要な節目にジェイムス・ブレイクの歌声を大胆に配置する起用術が素晴らしく、「許す」という結論が凄みを帯びてのしかかってくる。(小池宏和)
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