スプーンだけが持つ普遍性と先鋭性の特異なバランス感は健在、というか、いっそう輝きを増していると実感させてくれる最新作。トラディショナルとも言えるロックンロールおよび様々な音楽の熱や野性味と、モダンでシャープな音響センスが共存し、互いをうまく引き立たせている。大胆にも中盤に置かれたやや長尺な“ピンク・アップ”はヴィブラフォンをフィーチャーしてじわじわ進行し、後半に入るとダブ風な展開を見せるアヴァンギャルドとすら形容したくなるナンバーだが、この密やかに高まっていく感じはライヴで盛り上がること間違いなしだろう。次の“キャン・アイ・シット・ネクスト・トゥ・ユー”のファンキーなカッティングと跳ねるビートが始まる瞬間の高揚感も至福だ。前作から引き続いて起用された共同プロデューサーのデイヴ・フリッドマンとは相性バッチリなようだ。以前も書いたかもしれないが、あからさまに「新しいことやってみせてます!」というイヤらしさの感じられない自然なエッジの立ち現れ方は、だいぶ耳のスレてきた30ン年目のロック・リスナーとしては実にぴったりくる。いつまでだって聴き続けていられるアルバム。(鈴木喜之)