原点にして極み
ブリティッシュ・シー・パワー『レット・ザ・ダンサーズ・インヘリット・ザ・パーティー』
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ALBUM
4年ぶりの新作となる本アルバムは、デビュー以来の付き合いだったラフ・トレードを離れ、自主レーベルからの第1弾リリースとなる。ただし、新天地での心機一転作というよりも、むしろBSPの故郷へ、彼らのソングライティングの原点への帰還作という意味合いが強いサウンドになっている。過去数作で様々なアプローチとコンセプトを試してきた彼らだが、ここではシンプルに楽曲の質で勝負している。多種のストリングスをふんだんに駆使してパストラルな風景を展開していく構成の妙といい、パディ・マクアルーンの領域まで磨き上げられ、洗練されたメロディ・センスやポップ感覚といい、ゆったり取られた空間と余裕の中で、彼らの楽曲が豊潤の極みに差し掛かりつつあるのを確認できるのだ。そう、本作の中盤まではまるで心地よい潮風に吹かれながら海沿いを旅しているような作風なのだけど、後半はいつの間にか深い霧立ちこめる森の中に誘い込まれたような展開が待ち構えているのも、一筋縄ではいかない彼らのエキセントリック・ポップの真骨頂だ。大団円を演出するラスト・チューンまで、一枚聴き終えた時の充足感が凄い。(粉川しの)