これはひとつの物語が綴られたコンセプト・アルバムであり、タイトルに冠された「エンピリアン」というのは、最高天=古代には火や光のある所、中世では神や天使の住む最上の場所を意味していた言葉だとのこと。いかにもジョンらしい思索に基づく世界が背景に広がっていそうだが、ジャケットを見ると、彼自身は顔の判らないもう1人とともに(※その上にいる翼の生えた人物も2人が重なったような姿で描かれている)、天界からは遠く離れた地べたで泥にまみれて死んだように半分埋まっている。この絵を見ただけでも、本作の核にある精神性が、お空の上の理想郷を単にボーッと妄想して描いたものではなく、どん底で這いつくばって生きてきた人間のリアルな視点を持ったものだということが分かるとは言えないだろうか。
2曲目はティム・バックリィ代表曲のカバー。個人的には、5曲目における808(風?)なリズム・マシーンの使い方と、9曲目の声を低く濁した歌い方+ソナス・カルテットによるものと思われるストリングス・アレンジがツボにハマった。もちろんギター・プレイは相変わらず冴え渡っているし、その才能を再び示すには文句なしの内容だ。
ジョシュ・クリングホッファーとフリーの他、ニュー・ディメンション・シンガーズやジョニー・マーらがバックアップしている。(鈴木喜之)