今月のビッチ・ラブ パート1

リリー・アレン『イッツ・ノット・ミー、イッツ・ユー』
2009年02月04日発売
ALBUM
『イッツ・ノット・ミー、イッツ・ユー』
3曲目の“ノット・フェアー”。フォーク調(って言ってもフォーク・ダンスに使われるような軽快なもの)のこのトラックでリリーは、「子供っぽい馬鹿な男の子たち」とは違って、これまでになく自分を愛してくれる男に「でもひとつ問題がある、ベッドに入るとあなたは失格だから」と無慈悲にも糾弾。マジで死ぬぜ、こんなこと言われたら。しかも『rockin’on 2009年2月号』のP89の超カワイイ女の子にだよ。実体験から、思い当たる節があるんだけど、泣くを通り越してすぐさまこの世からいなくなれるはず。

とりわけこの一発が一番効いたけど、かつての男をディスってる曲は他にもいくつもある本作。その辛辣な矛先は他にも消費社会(“ザ・フィアー”)、女性蔑視(“22”)、挙句の果てにはブッシュ(“ファック・ユー”)にも向けられて、とにかく彼女はプンプン怒っている。ネット上のプリンセスから、国民的なセレブリティにいきなりなった彼女に降り掛かった数々の不条理を振り返ると、その怒りには誰もが納得できるだろう。で、今作はその怒りを彼女が音楽として昇華した作品と思うのが妥当なんだろうけど、実は違うのだ。“表現”なんて高尚なものはここにない、少なくとも彼女にとっては。現代っ子のリリーは、まるでブログにチャチャっと心情を書き込むように、曲を作る。そこには迷いはない。だからこそ前作のスカ/レゲエをあっさり捨て、エレポップからビートルズばりのハーモニーまでを悠悠自適に自分のDNAに組み込めるのだ。恐るべき才能である。いきなり出たかも今年のマイベスト。(内田亮)