いざ、ポップという名の「最後の異境」へ

ミューズ『サムシング・ヒューマン』
発売中
SINGLE
ミューズ サムシング・ヒューマン

昨年5月の“ディグ・ダウン”、さらに今年2月の“ソート・コンテイジョン”、と『ドローンズ』以来3年ぶりの新作へ向けて着実にキラー・カードを切ってきたミューズが、「ニュー・アルバムのリリースは今年11月」のアナウンスとともに公開した新曲“サムシング・ヒューマン”。12年の時を経て格段に「ポップの聖歌」としての普遍性と包容力を高めた“インヴィンシブル”のようでもあり、シンガー・ソングライターがアコギとルーパーで描き出す物憂げな心象風景のようでもあるこの曲の音世界に触れるにつれ、いよいよミューズは前人未到の音楽新次元に踏み込むのでは?という期待感を改めて噛み締めずにはいられない。

振り返ればミューズは、その楽曲のポップな訴求力とは裏腹に、常に音楽の神秘性を模索するがゆえに自らを探求の異境へと誘い続けてきたし、『ザ・レジスタンス』、『ザ・セカンド・ロウ~熱力学第二法則』の2作はまさにそんな彼らの在り方の象徴だった。しかし、前作『ドローンズ』で彼らは、ロック・バンド/ギター・バンドとして自らが体現してきたカタルシスそのものを量子化することで己の存在意義をアップデートしてみせた―つまり、ここまで研ぎ澄ませてきたハイパーかつハイブリッドな音の質感と、自身の原点とも言うべきロックのダイナミズムとを高次元で融合させることで、「誰も到達し得ない超人的なロック」としてのミューズ像を提示するに至った。初の英米1位&2度目のグラミー受賞はまさにその証左だ。

そんな極限炸裂の季節を経て、ミューズは満を持して「ポップという名の異境」へと踏み出しつつある。ゴスペルとグラム・ロックを電子の砂嵐の中で共鳴させたかの如き“ディグ・ダウン”。ヒップホップのトラックを思わせる重厚なビート感とマシューのドラマチックなボーカル・ワークが至上の化学変化を起こしてみせた“ソート・コンテイジョン”。そして、「人間らしさが欲しい」と厳かに歌う今回の“サムシング・ヒューマン”が、2018年のポップ・シーンを俯瞰したようなサウンドメイキングを施されているのも、決して偶然の産物ではないだろう。世界のロックの頂点に立ち、己の熱量と爆発力を完全に咀嚼し対象化した果てに、ミューズは時代のど真ん中に輝く最後の闘いの新天地へと旅立っていく――そんな予感に満ちた1曲。マシューがスーパーカーを駆ってクリス&ドムとの異次元カー・チェイスを繰り広げた果てにオオカミ男にメタモルフォーゼ、という遊び心と悪ノリが過積載されまくったミュージック・ビデオも痛快の極み。(高橋智樹)



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ミューズ『サムシング・ヒューマン』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」10月号に掲載中です。
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ミューズ サムシング・ヒューマン - 『rockin'on』2018年10月号『rockin'on』2018年10月号
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