アナザー・サイド・オブ

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『ラブ・イン・ザ・タイム・オブ・レクサプロ』
発売中
EP

恐らく『エイジ・オブ』関連の最終リリースになりそうな本作は、新曲およびリミックスに今夏海外リリースされた『TheStation』、『We’ll Take It』EP収録の2曲(④&⑤)をボーナスとして収めたファン必携盤だ。もっとも注目を集めている坂本龍一による②――『ASYNC―REMODELS』へのOPN参加へのお返しだろう――は『エイジ〜』の中でももっともオーガニックでライブな緊張感のあるトラックのリワークになる。はじかれる弦やチャイムがアクセントになっていた原曲のトーンをビブラフォンとおぼしき音色に継承したこのバージョンは、アンビエントで不透明な霧の中を航行する船を思わせる不安感を増幅させた仕上がり(それまで分散していた繊細なビートが終盤近くでせわしないパターンに統合されていく様は実にスリリング)。タイトル曲は『MYRIAD』ショウでも披露されていた美しい曲の待望の音源化になるが、シンセの瀑布としなやかにうねるメロディ、訥々としたビートを縫ってソナー音の反復が引っ張る様はこれまた海を思わせるもので坂本曲と良いシンメトリーを描いている。ガルシア=マルケスの壮大な恋愛小説『コレラの時代の愛』に引っかけたであろう曲名に含まれたレクサプロとは抗うつ剤の商品名だが、憂鬱が疫病のように蔓延しているこの時代、ロマンスも常に不安に晒されているということか。

驚かされるのはインディ・ロック界の新鋭SSW=アレックス・Gとの共演⑥だ。人脈も意外だし(OPNは実は顔が広いのか?)、初期エリオット・スミスやリチャード・スウィフトを彷彿させるフラジャイルな歌声とギターによるオリジナルとはかけ離れた解釈でエモーションが塑像されている。『エイジ』の根本にある叙情性と拡張性を象徴した1枚だろう。(坂本麻里子)



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ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『ラブ・イン・ザ・タイム・オブ・レクサプロ』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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『rockin'on』2019年1月号