もうベイルート名義のものは聴けないのかなとかってに思っていたのでこの新作は嬉しい。
衝撃だったファースト『グーラグ・オルケスタル』(06年)やブレイクスルーとなった『ザ・フライング・クラブ・カップ』(07年)は、いまだに少しも古びていないし、その音の性質上、劣化とは縁のない作品たちだが、これは前作『ノー・ノー・ノー』から約4年ぶり、通算5枚目となるもの。
ニューメキシコ州生まれのSSWザック・コンドンのソロ・プロジェクトとして誕生したベイルートの、メキシコからバルカン半島、深ヨーロッパを自在に行き来する仮想のワールド・ミュージックは、それは新鮮だったし、管弦楽バンドを率いたライブでも独自の魅力を披露してくれていた。
今作も非常に幅広いスタンスで、これまでの狙いを進めているが、アルバム・タイトルの『ガリポリ』は、曲を書いたイタリアの街から取られたものだし、ギリシャの島と思われる“コルフ”なんて曲もあり、それらに象徴されるようにヨーロッパの地方都市に息づく生活感やカルチャー、嗜好が自然に混ざり合う風景に癒される。また随所に流れる旅感覚が、ベイルートならではのスウィング(リズム)を作り出してくれ、映画のサントラのようにも聞こえてくる。
プロデュースは前作から引き続きゲイブ・ワックスで、例によってザックのテナー・ボイスが美しいメロディを歌い、現代風エキゾチシズムを振りまく楽団が一つ一つの曲に丁寧に色を塗り込めていき、古典的なリズム・ボックスの響きが、豊かな跳躍力で飛翔する姿は、どんなバンドにも例えようがない。アレンジを作り込んだりジャム・セッション要素もあるが、どこかに収斂するのじゃなく拡散していく姿が美しい。 (大鷹俊一)
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