はじめは驚いた。ザ・ジックスとの力作『スパークル・ハード』から1年弱で2001年のソロ・デビュー作以来18年ぶりとなるソロ名義の作品を出すというだけならまだしも、それが「エレクトロニック・アルバム」になると言うのだから。近年の彼の活動から、この展開を匂わせるような要素はちょっと思い当たらなかった。あえて言えば、昨年のインタビューで結成30周年を記念したペイヴメントの再結成の有無について問われた際にマルクマスはそれに乗り気になれない理由として『スパークル・ハード』に心血を注いできたことに加え、「それに、まだ取っておきのものもある」と答えていた。その「取っておき」こそが、本作だったのだろう。そして、作品の内容は、正しくその表現に相応しいだけの熱量が込められたものとなっている。演奏の揺らぎがもたらす気持ち良さ=グルーヴの分解・再構築を志したペイヴメントでの活動。また、解散後についても同様の方向性を維持しつつ、よりルーツへの視座を固め、過去の音楽を参照し、過去を更新することで今を残していくという意識を強めた創作を続けているマルクマス。本作は言ってしまえば、それらをそのまま電子音楽としてやったアルバムということになる。音色や構成が変われど、グルーヴとメロディがどうしようもなくストレンジで美しい彼のそれなのである。それゆえ、これまでに無かった形式の作品でありながら、紛れもないマルクマスの音楽であるという安心感が宿っているのだ。また、ぐにゃりと歪み、擦れた打ち込みのビートによる異様なグルーヴ感は、ペイヴメントの方法論を思い出させるものでありつつ、色気に欠ける均一的なリズムと音色が氾濫する現行の特定のシーンへの(彼らしく意地の悪い)批評としても機能している。 (長瀬昇)
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