社会風刺はポップだからこそ響く

ペット・ショップ・ボーイズ『アジェンダ』
発売中
EP
ペット・ショップ・ボーイズ アジェンダ

2016年にアルバム『スーパー』をリリースし、今なお枯れることのないエレクトロ・ポップのマエストロぶりを見せてくれたペット・ショップ・ボーイズ。キラキラのメロディとダンサブルな4つ打ちポップが楽しめるのはもちろんのこと、EDMやレゲトン的なリズムを取り入れながら、現代のダンス・ミュージックにアップデートし、新旧ファンいずれもが楽しめる作品を作り上げた。その『スーパー』から早3年。ファン待望の新作がリリースされた。昨年の段階では、2019年初頭のタイミングでフル・アルバムをリリースというアナウンスがされていたが、それは今秋へとずれ込んだ模様。そして今回はEP作品のリリース。しかしこの4曲入りEPは、アルバムのプロダクトとは別ものとして制作が進行していたようだ。ニール・テナントいわく「風刺的なものが3曲、そしてやや悲しい曲がひとつ。でもどれも広い意味で政治的なテーマがあるんだ。思うに、今僕たちが生きているこの時代がそうさせているんじゃないかな」とのことで、リリースの優先順位の高さをうかがわせる。特に“ギヴ・ステューピディティ・ア・チャンス”などは、「現代世界の質の低い政治的指導者の悲惨なクオリティについての風刺的楽曲」と痛烈なコメントを寄せていて、先に公開されているミュージック・ビデオからもわかるとおり、《愚かな行いに賞賛を》と、ポリティカルな内容を皮肉たっぷりに歌うもの。ニールの穏やかな歌声が心地好く響くポップ・ソングが、その裏に明確なアイロニーや風刺を含むのは今に始まったことではないが、今作はかつてないほどにストレートだ。ソーシャル・メディアが抱える問題やくだらなさをポップに風刺した“オン・ソーシャル・メディア”、格差社会への批判を軽快なシャッフルのビートに乗せて歌い上げる“ホワット・アー・ウィ・ゴーイング・トゥ・ドゥ・アバウト・ザ・リッチ?”、そして、難民問題の犠牲者となる子供たちへ思いを寄せた悲しいバラード曲“ザ・フォガットゥン・チャイルド”と、公開されているMVもすべて歌詞を明確に伝えようとする作りになっていて、彼らの本気のメッセージを受け取ることができる。すべてペット・ショップ・ボーイズらしい洗練されたクールなシンセ・サウンドを堪能しながら、否が応でも社会問題へと目を向けさせられる――そんなふうにポップ・アーティストとしての役割に、いつでも自覚的でいるペット・ショップ・ボーイズはやはり素晴らしい。19年ぶりとなる単独来日公演でも、そのメッセージをしっかりと受け止めたい。 (杉浦美恵)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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ペット・ショップ・ボーイズ アジェンダ - 『rockin'on』2019年5月号『rockin'on』2019年5月号
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