自由奔放なピートはかくも美しい

ピーター・ドハーティ・アンド・ザ・ピュータ・マドレス『ピーター・ドハーティ・アンド・ザ・ピュータ・マドレス』
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ALBUM
ピーター・ドハーティ・アンド・ザ・ピュータ・マドレス ピーター・ドハーティ・アンド・ザ・ピュータ・マドレス

ピート・ドハーティ(ピーター・ドハーティ)にとってザ・リバティーンズベイビーシャンブルズに続く3つ目のプロパーなバンドとなる「ザ・ピュータ・マドレス」名義でのデビュー・アルバムが本作。ただし、ご存知の通りリバティーンズは新作が進行中と言われており、活動を継続させているし、ベビシャンも解散ではなくあくまでペンディング状態にすぎない。つまり、ピートにとってピュータ・〜は過去を整理した心機一転のキャリアということではなく、リバティーンズが、ベビシャンが、そして彼のソロがそうだったように、半年先の未来に何一つ約束をしないピートの自由すぎて奔放すぎるクリエイティビティの現在地、として捉えるのが適切だろうと思う。ピュータ・マドレスは16年にヨーロッパを回ったピートのソロ・ツアーのバック・メンバーを前身とし、その後トランポリンのジャック・ジョーンズの参加によってプロパーなバンドに昇格した。トランポリン時代からピートの直弟子と呼ぶべきポエットだったジャックの加入によって、バンドに独立した命が吹き込まれたのだろう。

ベビシャン(2013)、リバティーンズ(2015)と、意外にもバンドとしての作品をコンスタントに出してきたピートだけに、本作にリハビリ的な側面は一切窺えない。むしろ、彼なりに退路を断ってリバティーンズの再生に臨む緊張が窺えた『リバティーンズ再臨』よりも、初期の『リバティーンズ革命』に近い勝手気儘な破天荒っぷりの復活作となっているのだ。最後までチューニングが狂ったままのギターも、ハウったままドシャメシャと転がっていくアンサンブルも、裏返ったまま帰ってこないピートのファルセット・ボーカルも、それでいて時折零れ落ちる宝石のようなリリシズムも、人生の普遍的哀しみをユーモアと皮肉でコーティングした詞の数々も、そしてヴェルヴェット・アンダーグラウンドの“ライド・イントゥ・ザ・サン”のオマージュというか勝手解釈も、そのすべてが愛すべきロクデナシの天才ピート・ドハーティの魅力に直結している。一方、初めてバンドにパーマネントなバイオリニストを得たことで、アイリッシュ・パンクやアシッド・フォーク、ボードビルにバロックにジプシー・ミュージックと、貴重なアンティークが無造作に突っ込まれたガラクタ箱のような彼の音楽の博覧性が、ベビシャン時代からさらにドライブがかかり、カラフルにハレーションを起こしているのも楽しい。つまり、ピュータ・マドレスはリバティーンズとベビシャンを期せずして横断した、ピートの包括的なプロジェクトになっているのだ。 (粉川しの)



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ピーター・ドハーティ・アンド・ザ・ピュータ・マドレス ピーター・ドハーティ・アンド・ザ・ピュータ・マドレス - 『rockin'on』2019年6月号『rockin'on』2019年6月号
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